研究課題/領域番号 |
21K13957
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分16010:天文学関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
早川 尚志 名古屋大学, 高等研究院(宇宙), 特任助教 (10879787)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 太陽活動 / 太陽黒点 / 宇宙気候 / 環境史 / 太陽地球環境 / 黒点 / 太陽物理学 / 太陽地球物理 / 太陽活動周期 / 歴史的観測 |
研究開始時の研究の概要 |
19世紀前半の太陽活動は例外的に静穏で、「ダルトン極小期」と呼称される。しかしこの頃の太陽活動の直接観測については、記録自体が歴史文献に記録され、その分析に太陽物理学のみならず歴史学・文献学の知見を要するため、必ずしも定量的復元が十全に行われているとは言い難い。そこで、本研究では、実際に当時の観測記録を複写、歴史学・文献学的に記述を解読し、現代太陽物理学の知見を適用して、当時の太陽活動を黒点数、黒点分布の試験的復元を行い、長期の地磁気変動と比較する。この時期のデータを過去410年の観測記録と比較し、ダルトン極小期の太陽活動の観測記録を現代科学観測の知見とどこまで定量的に比較できるか検証する。
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研究実績の概要 |
本年度の研究では、ダルトン極小期におけるシレジア(現ポーランド)でのVon Lindenerの1800-1827年の観測記録について、原典史料ベースで当時の黒点群数、黒点座標の導出を行った。その結果、当該観測者の黒点群数は同時代観測者とほぼ誤差の範囲で符合することが確認された。また、同観測から導出された黒点座標は南北半球双方に確認され、同時代観測者のデータを支持するのみならず、ダルトン極小期とマウンダー極小期の太陽黒点の挙動の根本的な差異を確認する形となった。どう観測からは一部の時期で若干北半球側への偏りも確認され、通常の太陽活動周期とのさらなる比較の重要性が確認された。 また、マウンダー極小期との比較検討も進んだ。マウンダー極小期の中でも、これまで復元の乖離していたのがその初期(1645~1659)の挙動である。今年度はマウンダー極小期初期の既知のデータについて、全て原典まで遡って再検討を行った。その結果、マウンダー極小期初期のデータの相当数に別種の観測の混入が認められ、個別黒点数が群数と誤認されている事例も確認できた。それに基づき、当該期間について日付付きのデータを改訂、提示できた。そのデータの黒点日・無黒点日の比率から黒点数を復元したところ、概ね、年輪の炭素同位体ベースの復元と矛盾しない結果が得られた他、マウンダー極小期がその初期においてもダルトン極小期より太陽活動レベルが低かったことが確認された。 このようなデータはベルギー王立天文台との共同研究のもと、黒点相対数決定値の再較正にも取り入れられ、ダルトン極小期を現代観測に文脈づける準備が進みつつある。また、欧州での文献調査から、従来の想定を超えてさらなる未交換文献の存在も浮上している。その分析が急がれる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度、当該研究については、ダルトン極小期の太陽活動復元について、当初計画で目標にしていたシレジアでの黒点観測記録(1800-1827)の分析が無事刊行された。その結果、複数観測データからダルトン極小期の黒点群数が通常よりも低いながら一般的な周期活動を行っていたこと、更に太陽黒点座標が両半球に見出され、マウンダー極小期とは根本的に異なる挙動を行っていたことが明らかになっている。また、これまで復元が大きく乖離していたマウンダー極小期初期の復元も行い、黒点日・無黒点日の比率から黒点数を復元することで、マウンダー極小期初期の太陽活動もダルトン極小期よりも根本的に低調であったことを確認できた。さらに、その成果をベルギー王立天文台との共同研究を通して、黒点数再較正に取り入れることで、太陽活動全体への位置付けも堅実に進んでいる。その意味で、本研究は当初の研究目標をかなり手堅く達成できたと考えられる。 一方、欧州での文献調査の結果、ダルトン極小期前後について、これまで先行研究でほぼ検討されていなかった文献の複写を入手することもできた。これは当該プロジェクトでのエクストラサクセスであり、今後このデータの検討を進めることで、ダルトン極小期の太陽活動の復元のさらなる精密化を目指せるだろう。また、ダルトン極小期の地磁気活動についてもデータが出揃いつつある。こちらについても検討が待たれる。このような記録の分析から、当該プロジェクトは当初想定を大きく超え、過去4世紀の太陽活動でのダルトン極小期の位置づけをより定量的に評価することが可能になるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
本研究での今後の方策としては、まずはこれまでの間に当初の研究計画の見立てを越えて欧州での文献調査に際して複写を入手できた文献記録の精密な分析を想定している。このような記録群から可能な限り黒点群数と黒点座標を復元することで、ダルトン極小期を19世紀中盤・後半の観測データとシームレスに接続して行くことを考えている。特にダルトン極小期と前後の太陽黒点観測をどのように接続するか、複数の手法を当てはめることは今後の太陽活動の長期変動の復元研究、さらにはその中でのダルトン極小期の位置づけの検討に当たって重要な手がかりとなることが期待される。また、ダルトン極小期の地磁気観測についても現代観測や古地磁気モデルとの比較のもと、定量復元を進めて行きたい。加えてマウンダー極小期との比較も、その当時の太陽黒点記録を原典史料ベースで洗うことで、その全期間の定量的かつより正確な比較検討を進めていくことを企図している。
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