研究実績の概要 |
本研究はダストの合体成長進化に伴う原始惑星系円盤の化学進化を明らかにすることを目的とする。これまでのALMA観測により,中心星からのX線や紫外線にさらされる円盤表層ガスでは活発な揮発性元素(H, C, N, O)の同位体分別が起きることが分かっている。一方、中心星輻射が遮蔽された円盤赤道面では同位体分別は不活性と理論的に考えられている。そのため太陽系の始原的な固体物質(彗星・隕石)にみられる揮発性元素同位体分別は分子雲起源が有力とされてきた。しかし、円盤表層ガス中での同位体分別が乱流輸送により赤道面の固体物質へと伝わる可能性がある。本年度はこの過程を定量的に評価し、太陽系始原物質の同位体比の起源を再考することを目的に、水分子の水素および酸素同位体比の鉛直分布の時間発展を気相及び固相化学反応と乱流による物質輸送を考慮して数値計算で調べた。その結果、円盤表層で駆動される同位体分別が赤道面の水氷の水素および酸素同位体比に与える影響は小さく、円盤内での同位体分別のみでは彗星氷で観測される水の同位体比を説明するのは困難であることが分かった。一方、分子雲形成段階の化学進化についても数値計算を行い、分子雲における同位体分別により彗星氷で観測される水分子の同位体比は容易に再現できることも分かった。以上のことから、円盤内における水分子の同位体比の変化は小さく、彗星氷の水は母体分子雲起源である可能性が高いことが分かった。以上の研究結果は、今後、学術雑誌に投稿する予定である。
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