研究課題/領域番号 |
21K13973
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分16010:天文学関連
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研究機関 | 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(機構直轄研究施設) |
研究代表者 |
高橋 葵 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(機構直轄研究施設), アストロバイオロジーセンター, 特任研究員 (70851848)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
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キーワード | 黄道光 / 惑星間塵 / 黄道放射 / 太陽系 / 太陽系小天体 / 生命関連有機物 / アストロバイオロジー / 光赤外線天文学 |
研究開始時の研究の概要 |
地球生命の誕生に不可欠なアミノ酸、糖、核酸塩基などの生命関連有機物は、太陽系の惑星間空間から原始地球に飛来した多量の塵によって供給された可能性が考えられているものの、近年地球へ飛来した惑星間塵の中にそのような有機物が検出された例はなく、どこからどのように供給されたかは未だ明らかでない。本研究では、惑星間空間を浮遊中の塵の天文観測により惑星間塵中の有機物探索に初めて切り込む。そのために、惑星間塵からの熱放射の足し合わせである黄道放射を赤外線宇宙望遠鏡を用いて分光観測し、中間赤外線スペクトル中に見られる有機物由来の放射ピークがどのような官能基・炭化水素基に由来するかを同定する。
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研究実績の概要 |
宇宙から地球上に飛来した可能性のある有機物の総量を見積もるためには、単位体積あたりの惑星間塵に含まれる有機物の存在割合を制約すると同時に、惑星間塵自体の絶対量を見積もる必要がある。 従来、惑星間塵の3次元空間分布は黄道光(惑星間塵が太陽光を散乱した光の足し合わせ)および黄道放射(惑星間塵からの熱放射の足し合わせ)の全天輝度分布から予測されてきた。しかし太陽を中心に等方的に広がって分布する惑星間塵成分(以下、等方成分)に起因する黄道光・黄道放射は地球周辺から見て全天でほぼ一様な輝度を示すため、太陽系外から届く可視・赤外域の宇宙背景放射と区別することが難しい。そのため、従来の方法では惑星間塵の等方成分を見落としていた可能性があり、惑星間塵の絶対的な総量については大きな不定性が残されている。 一方で、視線方向の空の表面輝度に含まれる黄道光と背景放射を切り分ける手法として、夜空のスペクトル中のフラウンホーファー吸収線に着目する方法がある。これは、太陽光に見られるフラウンホーファー吸収線が惑星間塵による散乱を受けてもなお維持されるという事実に基づくものである。 そこで私を含む国際共同研究チームでは、夜空の可視スペクトル中に見られるフラウンホーファー吸収線の等価幅から視線方向の黄道光輝度を推定する目的で、米国パロマー天文台の Hale 200インチ望遠鏡と可視分光装置 DBSP を用いて夜空の分光観測を実施した。観測データ解析の結果、複数天域における夜空の可視スペクトルを導出し、黄道光由来と思われるフラウンホーファー吸収線(Ca H/K線)を検出することに成功した。同時に、フラウンホーファー線の等価幅を十分な精度で制約するためには、地球大気由来の輝線の混入を厳しく抑える必要があり、波長分解能を上げた上で宇宙空間からの類似の観測を行うことが不可欠であることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
惑星間塵の絶対量を見積もるため従来とは異なるアプローチで黄道光の絶対輝度を推定する試みについては、パロマー天文台で実施した観測のデータ解析結果をもとに学術論文にまとめ出版済みである。 一方、惑星間塵中の有機物含有割合の推定にあたっては黄道放射スペクトルに見られる原子間振動由来のフィーチャーを捉えることにより塵の表面および内部の化学組成を調査する必要があり、このために赤外線天文衛星「あかり」で取得されたアーカイブデータから多数の天域の空の中間赤外線スペクトルを導出する予定である。ただし解析中の中間赤外線チャンネル(IRC/LG2)のスリット分光画像では、スリット以外の開口部分から入射した光の2次分散光や検出器内で散乱した光が本来見たいスペクトル領域に混入し邪魔をしていることが問題となっている。 現在は、これら2次光や散乱光の寄与をそれぞれの観測画像から直接見積もり差し引く手順についておおよそ目処が立っており、今後70天域を超える多量な観測データに対して網羅的に試行し、2次光および散乱光の除去方法が正しく機能しているか検証する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
【現在までの進捗状況】で述べたように「あかり」IRC/LG2で取得されたスリット分光データの解析では、スリット以外の開口部分(以下、スリットレス開口)から入射した光の2次分散光や検出器内散乱光の混入が課題となっている。今後はまず、これらの成分のスペクトルおよび強度を各画像から見積もって差し引く過程を確立し、スリット開口から入射した空の中間赤外線スペクトルのみを抽出できるようにする必要がある。 現状考えている2次光の除去方法は次の通りである。中間赤外域での空の輝度は視野内でほぼ一様な黄道放射が支配的となるため、スリット開口とスリットレス開口ではいずれも同じスペクトルを持つ黄道放射が入射し波長分散を受けていると考えることができる。したがってまずは2次光が混入したままのスリット開口スペクトル(暫定版1次光スペクトル)を導出し、それをもとにスリットレス開口の2次光スペクトルを擬似的にモデル化した上で、暫定版1次光スペクトルから2次光のモデルスペクトルを差し引く。なお2次光スペクトルのモデル化にあたっては、黄道放射スペクトル解析に使用する予定のなかった点源分光データから導出した1次光と2次光の光強度比を適用する予定である。 次に検出器内散乱光については、その散乱強度が特異な波長依存性を持たないと仮定すれば、一次関数で表されるオフセット成分としてスリット開口スペクトル上に乗ると考えることができる。したがって、スリット分光領域の両端で本来天体光強度がゼロになると思われる領域のスペクトルに対して一次関数フィッティングすることで、検出器内散乱光の寄与を見積もる。 以上のような手法を用いて、全天に散らばった70天域以上のスリット分光画像から波長20um帯における黄道放射スペクトルの詳細形状を世界で初めて導出し、惑星間塵の化学組成について議論する。
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