研究課題/領域番号 |
21K13981
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分17010:宇宙惑星科学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松本 徹 京都大学, 白眉センター, 特定助教 (80750455)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | 宇宙風化 / リュウグウ / 窒素 / 窒化鉄 / 磁鉄鉱 / 小惑星 / 有機物 / イオン照射 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、小天体表面で起こる複数の現象の組み合わせや無機鉱物の触媒作用に着目した宇宙環境の模擬実験から、宇宙風化による有機物の芳香族化の進行度や生成する有機物種を明らかにする。研究成果は、探査が進む小惑星リュウグウやベンヌの進化史や採取された試料の履歴を解読する指標となる。また、月や水星表面で見つかる炭素物質 の起源・進化の解明にも示唆を与えることが期待でき、成果は広く惑星科学に波及する。
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研究実績の概要 |
本研究は、C型小惑星表面で起こる物質変化の解明を目指している。今年度前半は、昨年度に引き続き、炭素質の小惑リュウグウから持ち帰った試料の初期分析に関わった。 本年の大きな発見は、宇宙風化を受けた複数の砂に含まれる磁鉄鉱の表面が、窒化していることを見出したことである。透過型電子顕微鏡によって元素分布を調べると、磁鉄鉱の表面の50nm程度の領域で窒素が濃集していることがわかった。そこでelectron diffraction mappingを使った詳細な分析の結果、窒化鉄(Fe4N)が磁鉄鉱を覆っていることがわかった。また窒素の濃集層は、鉄の濃度も高く、α鉄の電子線回折パターンも得られた。一方で、宇宙風化を受けた磁鉄鉱で窒素が存在しない粒子も存在し、その表面では50nm程度の深さまで鉄の濃度が高く、α鉄が存在した。この分析結果を以下のように解釈した。(1)リュウグウ表面への太陽風の照射や微小隕石の衝突によって、磁鉄鉱から選択的に酸素が消失し、過剰となった鉄原子からα鉄が生成する。(2)微小隕石の衝突によって生じた蒸気は反応性の高いアンモニアに富み、α鉄と衝突蒸気が反応した結果、窒化鉄が形成した。(2)のプロセスにおいて、リュウグウのようなCIコンドライト組成の衝突蒸気を仮定すると窒化鉄は安定に存在しないことがわかり、衝突物に窒素化合物が豊富に含まれていたと推定した。CI組成よりも豊富な窒素化合物を固体として含む天体は、太陽系の外側に分布する彗星や氷天体が考えられる。この考察は、現在のリュウグウの軌道である地球領域に、CIコンドライトよりも窒素に富む物質が少なからず飛来していることを示唆する。上記の成果を含めたリュウグウの宇宙風化の研究について、夏・冬に開催された国際 学会(イギリス、日本)にて発表を行なった。現在論文を投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように、本年度はこれまでに小天体表面で認識されていなかった窒化現象を発見し、その成果を国際学会で報告するとともに、論文投稿までを行うことができた。研究計画では、リュウグウ表面で生成した金属鉄が有機物中の炭素と反応することを予想していたため、窒化鉄の発見は予想外であった。しかし、その生成過程について熱力学的なモデルを用いて考察することができた。一方で、リュウグウの分析を優先することで、予定していた宇宙環境を模擬した照射実験については遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画では、リュウグウ表面の宇宙風化によって生じた金属鉄が有機物を含む高温蒸気と反応して、炭化などが起きることを予想していた。一方で、リュウグウ表面の金属鉄が窒化していたことは、炭化がなぜ起きないのかという新しい問題を提起している。金属鉄の炭化や窒化のしさすさについて、実験的な検証を行いたい。また、引き続きリュウグウ粒子の金属鉄に注目し、現在A室の試料のみで行なっていた観察をC室においても行いたいと考えている。
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