研究課題/領域番号 |
21K14011
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分17040:固体地球科学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大田 隼一郎 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 講師 (70793579)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | 遠洋性堆積物 / 遠洋性褐色粘土 / 年代 / 同位体分析 / オスミウム同位体比 / レアアース泥 / 微化石 / 鉱物学的分析 / 年代決定 / オスミウム同位体比層序年代 / ルテチウム-ハフニウム放射年代 / 地球史 |
研究開始時の研究の概要 |
海底堆積物は,様々な物質が過去の地球環境を反映して様々な割合で混合して生成したため,その堆積年代と構成成分の特徴を知ることで,地球環境の変動の歴史を知ることができる.この目的で古くから使われてきた生物源堆積物は,年代をうまく決められる一方,地球環境変動の情報が薄まってしまっている.それに対して,遠洋性褐色粘土とよばれる堆積物は,過去の地球環境の情報が色濃く記録されている一方,正確な年代決定が困難であった.本研究は,遠洋性褐色粘土を対象として,構成成分の特徴を把握し,さらに独自開発した同位体分析を用いた新しい年代決定手法を適用することで,地球環境の変動の歴史の新たな姿を明らかにする.
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研究実績の概要 |
本研究は遠洋性褐色粘土を対象として、オスミウム同位体分析、および、ルテチウムとハフニウムの同位体分析を用いた正確な年代決定と同時に、微量構成成分の特徴を把握することによって、遠洋性褐色粘土に記録された過去の地球環境変動記録を読み解くことを目的として、①正確な年代決定、②微量構成成分の特徴の把握、を並行して実施している。当該年度においては、①正確な年代決定、を中心に進めた。 まず、魚の骨を試料として用いたルテチウム-ハフニウム放射年代測定法を確立するための実験分析については、ルテチウムとハフニウムを効率よく抽出できるよう改良した試料分解手法を用いて分析を実施した結果、年代値を得ることに成功した。しかし、その年代値は、実年代よりも大幅に若い年代となった。原因としては、ルテチウムの放射性崩壊生成物であるハフニウムが、魚の骨から堆積物中への徐々に移行して失われてしまったためであると考えられる。以上のことから、オスミウム同位体比を用いて年代値を決定する手法を、より簡便かつ正確に実施する方法を開発する方針に変更した。 試料のオスミウム同位体比の測定手法については、前年度に開発した、試料量を10分の1に抑える超高感度なオスミウム同位体分析手法について、詳細な実験手順作成とデータ評価を実施し、Journal of Analytical Atomic Spectrometry 誌に論文を投稿し受理された。なお、本手法を用いて各種海底堆積物試料のオスミウム同位体比分析を実施し、複数の論文発表・学会発表を実施した。 また、オスミウム同位体比を用いて正確な年代決定を実施するには、遠洋性褐色粘土中から、海水由来のオスミウムのみを抽出しする必要があるが、本研究では試料をあらかじめ弱酸に浸し、非結晶性鉄酸化物ととともにオスミウムを抽出することで、海水由来のオスミウムを抽出することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の進捗状況について、まず①正確な年代決定については、魚の骨を試料として用いたルテチウム-ハフニウム放射年代測定法の開発を進め、正確な分析を実施できる手法を構築したものの、堆積物中で魚の骨からハフニウムが失われることで、正確な年代値を得ることができないことが判明した。このハフニウムの逸失は、実験中ではなく天然環境で起こる現象であるため、遠洋性褐色粘土の年代決定手法として、ルテチウム-ハフニウム法を用いることはできないことを意味する。 以上のように、ルテチウム-ハフニウム法を用いることができないことが確実となったため、海水のオスミウム同位体比を用いた年代決定手法の正確性を高めていくことに方針を転換した。オスミウム同位体比を用いて正確な年代決定を実施するには、遠洋性褐色粘土中から、海水由来のオスミウムのみを抽出しする必要があるが、本研究では試料をあらかじめ弱酸に浸し、非結晶性鉄酸化物ととともにオスミウムを抽出することで、海水由来のオスミウムを抽出することに成功した。これにより、海水のオスミウム同位体比変動曲線と、試料中の海水由来オスミウム同位体比とを正確に比較すること、すなわち、正確な年代決定を実施することが可能となった。 以上のように、得られた研究成果をもとに、本研究当初の目的の一つである、遠洋性褐色粘土の正確な年代決定、に向けて方針を転換しながら確実に進展しているため、おおむね順調に進展している、と評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の今後の推進方策について、まず①正確な年代決定については、遠洋性褐色粘土から海水由来のオスミウム同位体比を得る手法を用いて、超高濃度レアアース泥を含む遠洋性褐色粘土コアの最上部(現在)から最下部(白亜紀後期)までを一通り分析し、正確な海水由来オスミウム同位体比プロファイルを得る。同時に、すでに微化石によって正確な年代値の得られている生物現堆積物コアについて、最上部(現在)から最下部(白亜紀)までを密に分析し、既存の海水のオスミウム同位体比変動曲線を、本研究による正確なものに更新し、それをリファレンスとして用いることで、年代値の正確性を向上させる。 また②微量構成成分の把握については、遠洋性粘土に含まれる魚の骨の化石と特殊な底生有孔虫群の個体数分析という世界初の分析手法を適用し、白亜紀後期から新生代にかけての生物活動を復元する。また、宇宙起源粒子と沸石類の個数分析も実施し、さらに正確な年代値と合わせることで、遠洋性褐色粘土に記録された過去の地球環境変動、生物活動、物質循環、元素農集のモデルを作成する。
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