研究課題/領域番号 |
21K14034
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分17050:地球生命科学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
須田 好 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 研究員 (00792756)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2024年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | カンラン岩 / 蛇紋岩 / 炭素循環 / メタン / 炭化水素 / 炭素 / 非生物起源 |
研究開始時の研究の概要 |
蛇紋岩に関連した非生物的な炭化水素の生成機構を明らかにすることは、自然界の有機合成の仕組みを理解することであり、生命の起源を探求する上で重要である。岩石内で生じる炭素関連現象の記録は岩石中に保存されることが想定されるが、様々な起源・履歴をもつ炭素が混在するため従来の分析法では適切に情報を抽出できなかった。本研究では岩石内の炭素の分布に着目し、初生的な炭素と二次的な炭素を区別した上で、それぞれについて化学形態別の炭素量および炭素同位体比を明らかにする。さらに岩石学的な特徴の異なる複数試料の比較により、炭化水素生成が起きる場所や鍵となる鉱物を顕在化させる。
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研究実績の概要 |
本研究はカンラン岩中の炭素の分布に着目し、初生的な炭素と二次的な炭素を区別した上で、それぞれについて化学形態別の炭素量および炭素同位体比を明らかにすることを目標とする。初生的な炭素と二次的な炭素では岩石内の分布は異なるはずであり、前者は鉱物結晶内、後者は粒界に分布することが予想される。本研究では鉱物内および粒界に分布する炭素化合物の違いを評価するために、同一試料において全岩分析と主要鉱物ごとの分析を実施し比較する。 2022年度は、分析前処理における全工程(鉱物分離、鉱物表面洗浄、試料の粉末化、粉末試料の有機溶媒抽出)の手法を確立させ、4種類のサンカルロス産カンラン岩試料について前処理を完了した。またEA-IRMSを用いて、これら4試料の全岩および主要鉱物ごとの全炭素量と炭素安定同位体比(δ13C)を測定した。その結果、同一試料中の鉱物種間で比較すると、全てのカンラン岩試料について、単斜輝石>カンラン石>斜方輝石の順に全炭素量が多くなることが分かった。鉱物試料中の全炭素のδ13C値は-24から-12‰(vs. VPDB)の範囲であった。全岩試料は鉱物試料と比較してδ13C値が低い傾向があり、このことは粒界に有機物が分布することを示唆する。今後、全岩および鉱物試料中の炭酸塩量およびそのδ13C値、有機溶媒抽出試料中の有機炭素成分の同定を行うことで、化学形態別の炭素の分布を明らかにする。 2022年7月下旬に北海道赤岩青巌峡の蛇紋岩体から湧き出る強アルカリ性湧水(Nishiki et al., 2020)のサンプリング調査を実施した。GC-PDHIDを用いて溶存ガス成分の分析を行った結果、わずかにメタンが含まれていることが分かった。蛇紋岩に関連したメタンが湧出するサイトとして、長野県白馬八方温泉と合わせて調査を継続していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述した通り、本年度は分析前処理の全工程を確立し、サンカルロス産カンラン岩4試料について前処理を完了させた。全炭素量とδ13C値に向けてEA-IRMS装置を立上げ、測定条件の最適化およびラボスタンダードの値付を行った。カンラン岩4試料について測定を実施し、全岩および鉱物種による全炭素量とδ13C値を明らかにした。また、GC-MSを用いた有機炭素成分の測定およびIRMSによる炭酸塩分析の準備も着実に進めている。当初計画していた全炭素、無機炭素、有機炭素の分析は来年度中には達成できる見込みである。 2022年度は野外調査も実施でき、蛇紋岩に関連したメタンが湧出するサイトを探索する中で、北海道赤岩青巌峡の強アルカリ性湧水を開拓した。本地域の蛇紋岩は、これまで研究してきた長野県白馬岳地域の蛇紋岩に比べて蛇紋岩化度が高く、湧水の溶存メタン濃度は二桁ほど低かった。長野県白馬八方の蛇紋岩体に位置する強アルカリ性温泉の観測データ(Suda et al., 2014, 2017, 2022)と比較することで、岩石とメタン・炭化水素生成の間の因果関係を知る手がかりとなることが期待される。 また、当初の計画に加えて、岩石中の流体包有物に含まれるメタンの定量分析に着手した。近年の研究でカンラン石の二次流体包有物中にメタンが普遍的に存在することが報告されており(Klein et al., 2019; Grozeva et al., 2020)、蛇紋岩に関連した炭化水素の成因を解明する上で流体包有物中のメタンの分析は重要である。ガス置換型のバルブ付き粉砕容器を試作し、蛇紋岩を粉砕して出てきたガスをGC-PDHIDで測定した。メタンのピークを検出することができ、本手法で流体包有物中のメタン量を測定できることが分かった。 以上のことより、現在までの進捗状況を「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、岩石・鉱物試料の有機溶媒抽出で得た液相試料中の有機物成分の同定に向けてGC-MSを、炭酸塩量の定量および同位体比分析に向けてGasBench-IRMSを立ち上げ、測定条件の最適化および実試料の測定を行う。鉱物量比の異なる複数のサンカルロス産カンラン岩試料について、炭素に関する地球化学的な共通性と多様性を明確にし、岩石学的な見地も取り入れて考察を行う。続いて同様の分析を島弧性マントルカンラン岩について行い、テクトニックセッティングの違いによる炭素の地球化学的特徴を明らかにする計画である。 流体包有物中のメタンの定量分析に向けて、まずはガス置換型粉砕容器を改良する。試作では価格の安いステンレス製で粉砕容器を製作したが、ステンレス鋼は容器内壁と粉砕用媒体の衝突により容器由来の水素やメタンが発生することが知られている(Grozeva et al., 2020)。そこでブランクの影響や将来的な岩石の主要・微量元素分析も考慮して、2023年度はジルコニア製の粉砕容器を製作する。また、分析装置の試料導入部と直接接続できるようにすることで、大気の混入なくガス成分を測定できるように改良する予定である。長野県白馬岳地域と北海道赤岩青巌峡地域で採取した蛇紋岩を用いて試験分析を実施し、容器ブランクの評価および最適な粉砕時間の検討を行う。岩石薄片観察によって流体包有物の分布や岩石の鉱物組み合わせを確認し、粉砕して出てくるメタン量との関係を調べる。その際、必要に応じて蛇紋岩試料のサンプリングを目的とした野外調査も実施する。
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