研究課題/領域番号 |
21K14045
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分18010:材料力学および機械材料関連
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 (2022) 九州大学 (2021) |
研究代表者 |
小川 祐平 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 構造材料研究拠点, 研究員 (30847207)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2021年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | オーステナイト鋼 / 水素 / 固溶強化 / 転位 / 熱活性化過程 / 元素拡散 / 鉄鋼材料 / オーステナイト / 強度・延性 / 変形双晶 / 合金成分 / 強度・延性バランス |
研究開始時の研究の概要 |
Fe-Cr-Ni三元系成分のオーステナイト鋼を対象とし,高濃度水素チャージに伴う固溶強化と双晶変形促進効果を応用して,高強度・高延性化が達成される実例を示す.これにより,鉄鋼材料にとってネガティブな存在として忌避されてきた水素が,力学的材料性能向上のための有効添加元素としても活用できることを立証する.材料内部での水素-格子欠陥相互作用を捉えるための引張試験手法と最新鋭の走査型電子顕微鏡分析を融合させ,固溶強化・双晶変形発生の潜在機構と破壊の素過程を,ミクロレベルの水素-金属間相互作用を基に解明する.従来の水素脆化に関する固定概念を塗り替え,水素適合構造材料開発への新たな方向性を示す.
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研究実績の概要 |
当該年度は,水素侵入に伴うオーステナイト鋼の高強度化現象,すなわち固溶強化メカニズムの解明に注力した.前年度までの研究において水素固溶による高強度・高延性化が認められているFe-24Cr-19Ni(mass%)合金を用い,~7600 at ppmの水素を添加した状態で,173~423 Kまでの広範な温度範囲における引張試験と,296 Kにおける繰返し応力緩和試験を実施した. 水素による固溶強化量は室温付近かつ低ひずみ速度域で最大値を示し,このことから,結晶格子中に分散した水素原子に加え,塑性変形中の運動転位に追従する水素原子の雰囲気が,固溶強化に対して重要な役割を担っていることを定量的に実証した.また,173 K付近の低温域では,応力上昇自体は室温付近ほど顕著ではないものの,固溶強化量が水素原子濃度に対して指数関数的に上昇し,かつひずみ速度に依存しない非熱的特性を持つことを明らかにした.昨年度までの成果である水素固溶度のCr濃度依存性を踏まえ,低温ではCrと水素から成るI-S複合体および短範囲規則格子が,固溶強化の支配要因であることを示唆する結果を得た. 応力緩和試験においては,測定される熱活性化パラメータから,水素が転位に対する母相格子中の摩擦力成分を上昇させていることを明確に示す結果を得ることができた.同実験において得られた転位運動の活性化体積の定量的数値から,水素-転位間相互作用の具体的様相と,それによる固溶強化発現のモデルを構築した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では当初より,Fe-Cr-Ni三元系合金を対象に以下2つの目標を掲げている. 《1》水素による高強度・高延性化の潜在機構を原子スケールで明らかにすること 《2》水素による高強度・高延性化が最も効率よく現れる合金組成を明確にすること このうち《2》については前年度の研究において概ね完了したと言って良い.また,《1》についても,「高強度化」の部分については研究期間1年を残した状態でその達成度は90%程度であり,残された課題は構築した固溶強化モデルの検証・確立と「高延性化」機構のさらなる追求のみである.さらに,前年度の成果である変形双晶のその場観察については,本年度査読付き国際学術誌へと投稿し,採択された. 以上のように,研究期間3年のうち2年目終了時点において当初の計画が想定以上に進展していることから,「当初の計画以上に進展している」の評価とする.
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今後の研究の推進方策 |
当該年度の研究において,固溶強化メカニズムの解明に対して応力緩和試験が極めて有効であることが明らかとなった.一方,一般に溶質元素と転位との相互作用の鍵となるのは,引張試験の結果からも明らかなように,温度を変化させた際の挙動変化である.このことから,次年度は応力緩和試験に温度変化を組み合わせ,本年度構築した水素-転位間相互作用モデルの検証を図る. また,オーステナイト鋼では温度低下に伴って積層欠陥エネルギーが低下することから,変形双晶の発現に対しても温度の影響が重要である.前年度と同様に173~423 Kの温度範囲を対象に,水素による変形双晶促進の挙動変化を明らかにし,高延性化メカニズム解明への足掛かりとする.
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