研究課題/領域番号 |
21K14198
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分21050:電気電子材料工学関連
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
三木 拓司 神戸大学, 科学技術イノベーション研究科, 特命准教授 (60754629)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2021年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 量子コンピュータ / NISQ / センサー / 極低温 / AD変換器 |
研究開始時の研究の概要 |
誤り訂正を行わない中規模の量子コンピュータでは、制御回路等が発するノイズによって量子ビットの状態が変化した際に、量子演算精度が著しく劣化するという課題が存在する。本研究では、量子ビット近傍のノイズを内部から高精度にセンシングし、そのノイズ量を基に量子ビットの重ね合わせ状態を推測する手法を検討する。これにより、演算過程において直接観測することができなかった量子ビットの状態を間接的に把握することができる。さらに、得られた量子状態を制御回路にフィードバックすることで演算誤差の補正が可能となる。本手法により、中規模の量子コンピュータにおける量子演算精度の向上が期待できる。
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研究実績の概要 |
量子誤り訂正を行わないNISQ型の中規模量子コンピュータにおける量子演算精度の向上を図るため、本研究では、量子ビット近傍のノイズを高精度にセンシングし、そのノイズ量を基に演算誤差の補正を行う手法を開発する。令和3年度の研究実績は、量子ビット近傍の温度や制御回路からの電気的雑音等、量子ビットに影響を与えうるノイズ情報を取得する高精度センサー回路の開発を行った。まず、シリコン量子ビットの開発を行っている研究者にヒアリングを実施し、量子ビットに誤差を与えるノイズの特性を調査した後、そのノイズを取得するために必要なセンサー回路の分解能や帯域を決定した。また、本センサー回路は量子ビット近傍に配置する必要があるため、冷凍機内の限られた面積・消費電力の範囲内で動作させる必要がある。そのため、センサー回路内のアナログ・デジタル変換器(AD変換器)において、高性能を維持しながら小型・低消費電力化を図るアーキテクチャを考案した。続いて、センサー回路をCMOSプロセスにて設計し、チップ試作を行った。チップ設計完了後は、本チップを極低温環境にて実測するために、評価ボードや治具等を開発し、評価環境の構築を完了した。本チップの極低温環境における測定と性能評価は、2022年度に実施予定である。 また、ノイズによる量子ビットの誤差が量子演算結果にどれだけ影響を与えるかを把握するために、具体的な量子アルゴリズムを量子コンピュータのクラウドサービス上で動作させる実験を行った。本実験の結果から、令和4年度以降に取り組む量子状態推定に必要な量子ビット誤差と演算精度に関するデータを取得した。本成果については、量子ソフトウェア研究会において口頭発表済みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画では、令和3年度(1年目)において、量子ビット近傍のノイズ環境を高精度に取得するセンサー回路の開発を計画した。現在までの進捗としては、冷凍機内の量子ビット近傍で動作する小型・低消費電力センサー回路のアーキテクチャを検討し、その回路設計を行い、チップ試作を完了した。また、冷凍機を用いた極低温動作検証に向けて、評価ボードの設計や評価治具の準備など、極低温測定環境の構築を行った。しかし、予定していた極低温環境における測定を実施することはできなかった。この理由として、近年の半導体需要の増加に伴い、ファウンドリ企業のチップ試作機会が減少したことが挙げられる。設計したセンサー回路を予定していたシャトルに搭載することができず、試作タイミングが遅れたため、極低温評価を令和4年度に繰り越すスケジュールへと変更した。一方、センサー回路開発と並行して、本研究の目的である量子演算精度の向上を図るために、どれだけのノイズが量子演算精度に影響を与えるかという検討を実施した。具体的な量子アルゴリズムをクラウド型量子コンピュータにて実行し、量子ビットのエラー率と演算精度との関係を実験的に導いた。本研究成果は量子ソフトウェア研究会にて口頭発表済みである。この結果を基に、少数の量子ビットで構成される量子コンピュータで正確に量子演算を実行するために許容されるノイズ量を求めることができる。ここで得られたノイズ量は、実際の量子ビット近傍ノイズから量子演算誤差を見積もる際の参照値として活用することが可能である。このクラウド型量子コンピュータを用いた取り組みは研究実施計画に記載されていないが、ノイズと演算精度の関係を早期に解明することに大きく寄与すると考える。従って、センサー回路の評価遅延を補うことができると考え、本研究の総合的な観点から、進捗状況はおおむね順調であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度(2年目)は、量子ビットのノイズ源となる量子ビット制御回路とノイズセンサー回路との統合システムを構築し、その評価を実施する。まずは、試作したノイズセンサー回路の極低温評価を実施する。評価を行うにあたり、本センサーがノイズ情報を電圧・時間的に高分解能で取得可能であること、また、低消費電力動作が実現可能であることを確認する。その後、ノイズ源となる量子ビット制御回路の仕様策定を行い、回路設計およびチップ試作を実施する。試作したチップはノイズセンサーと統合し、極低温にて評価を実施するために、評価ボードや治具等のシステム評価環境を構築する。極低温評価では、制御回路が発するノイズをセンサー回路によって高精度に取得可能であることを確認する。また、令和4年度は、量子ビットのシミュレーションモデルを構築する。量子ビットがノイズによって受ける影響について、研究協力者にヒアリングを実施し、量子ビットのデバイスモデルを構築する。本モデルを用いて、実際にノイズセンサーで取得したノイズ情報から量子ビットにどのような影響を及ぼすかをシミュレーションし、量子演算誤差の推定を行う。令和5年度は、最終年度として、中規模量子コンピュータにおける演算精度向上手法を確立するために、得られたノイズデータと量子演算誤差の推定結果を基に、演算誤差の補正手法を検討する。取得したノイズデータ、量子ビットモデルおよび誤差補正機構を統合したシミュレーション環境を構築し、本手法の有効性を立証するとともに、学会発表、論文化を通じて成果の発信を行う。
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