研究課題/領域番号 |
21K14209
|
研究種目 |
若手研究
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分21060:電子デバイスおよび電子機器関連
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
金子 光顕 京都大学, 工学研究科, 助教 (60842896)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2021年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
|
キーワード | 炭化ケイ素 / 電界効果トランジスタ / 論理回路 / 閾値電圧 / イオン注入 / 厳環境 / 接合型電界効果トランジスタ / 深いドナー |
研究開始時の研究の概要 |
近年、200℃以上の高温環境で動作可能な集積回路に注目が集まっているが、既存のシリコン集積回路は材料物性の制約上動作が不可能である。高温動作が可能なシリコンカーバイドを使用した集積回路に注目が集まっているが、論理閾値電圧が温度と共に変化する課題を抱えている。本研究では材料科学・電子デバイス工学的観点でトランジスタ特性を制御することにより室温-400℃の超広温域における論理閾値電圧の安定化を目指す。
|
研究実績の概要 |
高温・高圧・高放射線環境下などの厳環境で動作する集積回路は石油・ガスの掘削作業、惑星探索、エンジン燃焼室の燃費向上など様々な応用先が存在する。ワイドギャップ半導体である炭化ケイ素(SiC)による集積回路の作製が期待されているが、Si集積回路の構成デバイスであるCMOSをSiCで作製すると、閾値電圧が大きく変動するなど実用化に大きな課題がある。 本研究では、集積回路の構成デバイスとして接合型トランジスタ(JFET)を使用することでCMOSが抱える信頼性の問題を回避し、厳環境動作可能なSiC集積回路の開発を目指す。材料科学・電子デバイス工学的観点から室温-400℃の超広温域において論理閾値電圧の変動を抑えた相補型素子作製の基盤技術を開発することを目的としている。 本年度は、相補型JFET回路の論理閾値電圧変動抑制に有効と考えられるSiC中の深いドナー探索を行った。先ず、深いドナーの候補としてAs、Sb、S、Oに着目し、イオン注入層を形成した。活性化アニール前後の深さ方向プロファイルの比較により、As、Sb、Sは熱拡散が生じないことがわかった。Oは熱拡散が生じ、デバイス設計に不利であることがわかった。さらに、Hall効果測定用試料を作製し、キャリア密度を調べた結果、As、Sbはイオン化エネルギーが60 meVの浅いドナー、S、Oは340、900 meVの深いドナーであることが分かった。熱処理による安定性とイオン化エネルギーを考慮し、SがCJFET応用に最適な深いドナーであると判断した。さらに、SドープSiC層の物性評価のため、様々なドーピング密度を有するSドープSiC層を作製した。SドープSiCの移動度はNドープSiCの移動度よりも高いことを示し、その原因としてSの活性化エネルギーが大きいためイオン化不純物散乱の寄与が小さいことを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、SiC中の深いドナー探索を行った。4種類の元素を注入したSiCの物性評価を行い、硫黄(S)が応用に適した深いドナーとなりうることを明らかにし、研究は概ね当初の計画通り順調に進展している。 窒素もしくはリンをドープしたn型層が一般的に使用されるため、それ以外の元素をドープしたSiCの体系的な物性評価はあまり行われていない。特に、SドープSiC層の物性評価の報告は1報に限られており、その理解が進んでいなかった。本研究では、Sがダブルドナーの性質を有することを踏まえて実験結果の詳細な解析を行ったことにより信頼性の高い結果が得られたと言える。デバイス設計においては移動度やイオン化エネルギーなどの物性値は必須の情報であり、設計面において意義深い。様々なドーピング密度を有するSドープSiC層の評価において、2×10^18以上のSがドーパントとして活性化しないことが(SのSiCに対する固溶限界)判明したことも特筆すべき点である。物性解明の観点ではイオン化不純物の寄与が小さいことに対してヘリウム原子様散乱モデルを用いることで移動度の上昇が一部理論的に説明ができた点も意義深いと言える。なお、本研究で明らかとなった深いドナーをドープした半導体の物性は他のワイドギャップ半導体における解析においても有益であるため、その波及効果は高いと考える。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究により、CJFETの論理閾値電圧シフト抑制においてSをnチャネル領域のドーパントとして使用することが有望であることが明らかとなった。今後は実際にnチャネル領域にSをドープしたJFETを作製し、そのデバイス特性の評価を行う。Sはダブルドナーの性質を有するため、SドープSiC層の空乏層は一般的なドナー(N、P)を使用したSiC層より伸びにくい。そのため、JFETの閾値電圧が同じチャネル厚を有する場合でも異なることが予想される。JFETの閾値電圧を制御できる構造として、過去に実績があるサイドゲート構造を有するJFETを作製する予定である。様々なチャネル厚を有するSドープJFETを作製し閾値電圧とチャネル厚の関係を明らかにする。デバイス特性の評価の際は本年度の研究で明らかとなったSドープSiC層の物性値を用いて解析を行う。また、温度依存性の評価の際、イオン化エネルギーに応じたドレイン電流の増大がみられるか確認する。特に移動度の温度依存性についてはNやPをドープしたSiCと大きくことなるため本研究で明らかにしたものを活用する。その後、実際にCJFETインバータを作製し、温度上昇に伴うインバータの論理閾値電圧のシフトが抑制されるか検証を行う。
|