研究課題
若手研究
次世代パワー半導体材料として期待されるGaNは高耐圧・高周波動作可能であるが、大電流駆動に課題がある。大電流駆動時は発熱が問題となるため、半導体自体の抵抗を低くする必要があるが、GaNでは物性限界を超えて抵抗が低下する「伝導度変調」という現象が無視できるほど小さいという欠点があった。近年、現所属の大阪大学森研究室において超低抵抗かつ低転位密度なGaN自立基板を用いることで大規模伝導度変調の発現を示唆する結果が得られたため、本申請研究ではより低抵抗かつ低転位密度なGaN自立基板を開発することで、GaNにおける伝導度変調を完全制御し、極低損失・高速スイッチングパワーダイオードを実証する。
前年度までに低抵抗,低転位なOVPE基板の作製は完了し,パルスIV測定と理論計算から伝導度変調の解析を行ったが,高電流注入領域における理論との乖離については不明であった.伝導度変調の制御にはどの程度の耐圧範囲まで伝導度変調が利用可能であるかを予測する必要がある.そこで今年度はドリフト層幅の異なるpnダイオードをOVPE基板上とHVPE基板上に作製し,高注入キャリア寿命(τHL)の導出を試みた.また理論と乖離する原因についても考察を行った.まず,ドリフト層幅に対するオン抵抗の推移から導出されたτHLは2.5nsであった.ここから予測される適応可能な耐圧範囲は通常のHVPE基板上で2kVとなる.OVPE基板を利用することで伝導度変調のより顕著な発現が確認され,適応耐圧範囲は3kV程度まで拡張可能であることがわかった.しかしながら,この耐圧範囲はワイドギャップ半導体のバイポーラデバイスの適応が期待される超高耐圧域(数10kV)よりも低く,少数キャリア寿命の短いGaNにおいて伝導度変調を積極的に利用するためには超接合など構造の工夫が必要であることを示す結果である.次に,理論との乖離について述べる.作製した全pnダイオードのオン抵抗は,p電極の接触抵抗よりも低い値を示した.すなわち電流が流れることで接触抵抗がほぼゼロとなることを示している.この現象はpn接合がターンオンする際に生じる電界発光を自己吸収して正孔濃度が上昇するフォトンリサイクイング効果と理解されている.すなわち,注入電流密度に依存して接触抵抗が変化することを意味しており,理論計算との乖離要因となる.本研究を通して,高キャリア濃度基板は基板からの電子注入を増やし,GaNにおける伝導度変調を増幅する効果があることが示された.しかしながら,実用にあたっては構造の工夫,欠陥の低減による寿命のさらなる延伸が必要と考えられる.
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