研究実績の概要 |
本研究課題期間においては、メモリスタのセンサデータ時系列処理応用に向け、センサ時系列データからの特徴量抽出の原理検証および、データ処理に適した素子の解明に向けた特性のモデル化に取り組んだ。 メモリスタを用いたセンサ時系列データ処理応用については、種々の試験ガス(エタノール、アセトン、酢酸ブチル)に対し、ガスセンサの駆動温度を様々に変え、仮想センサアレイとして駆動し、時系列データを入力することで、その特徴量をパターンとして得ることに成功した。そして、同様のパターンを試験ガスごとに取得し、異なるパターンを得ることができ、メモリスタによる特徴量パターン取得可能性を実証した。 特性のモデル化については、実測とシミュレーション双方の観点から取り組んだ。まず、シミュレーションモデルとして、先行研究において提案されている積層構造メモリスタのコンパクトモデル(Torre et al., TED, 66, 1268(2019))を採用し、メモリスタの電流-電圧特性の実測値と計算値を比較することで種々の物理パラメータを抽出することを目指した。特に、パラメータ最適化手法としてベイズ最適化を採用し、そのためのプログラムを実装した。一方、実測結果から既存のモデルに求められる改良点を探った。特にセット特性およびセット直後の抵抗状態に着目し、TaOx/TiOy積層型メモリスタにおける、セット時の最大電流(I_set,max)とセット後の抵抗値(R_LRS)の関係を詳細に評価した結果、TiOy層の抵抗成分が無視できず、I_set,maxの大きさに依存して、セットに伴うTiOy層の抵抗増加とフィラメント径の増大による抵抗減少が拮抗しうることが明らかとなった。このようなフィラメント径の変化は既存モデルに取り入れられていない点であり、両者の寄与を考慮したモデルの構築が必要であることを見出した。
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