研究課題/領域番号 |
21K14211
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分21060:電子デバイスおよび電子機器関連
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研究機関 | 富山県立大学 |
研究代表者 |
岩田 達哉 富山県立大学, 工学部, 講師 (80735639)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
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キーワード | メモリスタ / 金属酸化物抵抗変化素子 / 金属酸化物メモリスタ / センサ時系列データ / におい識別 / においセンシング |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、産業から日常生活に至るまで広く用いられるにおいセンサについて、その場検査を可能とする小型高精度なセンサの実現に向け、センサ時系列データの利用とそのデータ処理用デバイスの研究に取り組む。特に、デバイスの候補として金属酸化物メモリスタを採用し、シミュレーションに基づき、においセンサ時系列データ処理における性能要求を明らかにする。一方で、界面組成に着目したデバイス特性制御に取り組み、性能要求を満たす素子を実現する。以上の取り組みを通じ、作製したメモリスタを用いたにおい時系列データ処理により、におい識別性能が向上することを実証し、においセンサ時系列データ処理の技術基盤を構築する。
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研究実績の概要 |
今年度は、金属酸化物メモリスタのシミュレーションモデルに基づくデバイス設計のための基盤技術構築に向け、前年度に引き続き、メモリスタの抵抗変化特性を詳細に評価するとともに、メモリスタ特性再現のためのシミュレーション並びにモデルパラメータ抽出プログラムの実装に取り組んだ。 特性評価については、TaOx/TiOy積層素子を用いて、アナログセット特性のデバイス構造による違いを詳細に評価した。特に、セット時の最大電流(I_set,max)とセット後の抵抗値(R_LRS)の関係を調べたところ、I_set,maxが小さい領域では、I_set,maxを大きくするに伴いR_LRSが増加する挙動を示す素子が見られた。そして、I_set,maxが15 mA近傍でRLRSが最大となり、さらなるI_set,maxの増加に対しては、逆にR_LRSが減少する挙動を示した。この結果は、本研究においてはTiOy層の抵抗成分が無視できず、I_set,maxの大きさに依存して、セットに伴うTiOy層の抵抗増加とフィラメント径の増大による抵抗減少が拮抗していることを示唆する。そして、シミュレーションモデル構築の観点からいえば、両者の寄与を考慮することが必要であることが明らかとなった。 シミュレーションモデルの実装については、先行研究において提案されている積層構造メモリスタにおけるコンパクトモデル(Torre et al., TED, 66, 1268(2019))を基に、特性の再現に取り組んだ。本モデルでは、微分方程式と非線形連立方程式を逐次解くことになるが、文献の微分方程式の解法では精度が不十分であることが明らかとなった。そこで、解法を種々検討し、有意な結果を得ることに成功した。その後、パラメータ最適化手法として、電流-電圧特性の計算結果に対してベイズ最適化を用いたパラメータ最適化を行うプログラムを実装した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、特性評価と解析をさらに進めるとともにシミュレーションモデルならびにパラメータ最適化アルゴリズムのコード実装とその検証を行った。特性評価については、セット時の詳細な挙動が明らかとなり、より実デバイスの特性に近いシミュレーションモデル構築に有用な知見を得た。対して、シミュレーションモデルの実装については、先行研究の不十分な箇所を修正することに成功したが、そこに多くの時間を要した。結果として、パラメータ最適化プログラムを実装はしたものの、実デバイスので電流-電圧特性を十分再現するには至らなかった。一方で、本研究で提案しているセンサ時系列データ処理応用は、金属酸化物メモリスタの物理リザバーとしての応用と等価であることを見出した。そのため、センサデータ処理応用に対する性能評価は、物理リザバーとしての性能評価に置き換えることができると考える。 これらを踏まえ、次年度はシミュレーションに注力し、素子の電気特性をできる限り再現可能なモデル構築と、パラメータを抽出する手法の検討に注力する。物理リザバーとしての性能指標は既存の物を利用でき、素子特性も既存の物を利用できることから、このように方針を転換しても、当初の目的は達成可能であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、シミュレーションで得られる素子の電気特性が実デバイスの物に近い特性が得られるよう、シミュレーションモデルの修正とパラメータ最適化に取り組む。 まず、実デバイスの特性再現には物理パラメータや電圧範囲を変化させつつ特性を計算し、これと実デバイスの特性を比較する必要がある。一方で、現状の解法では、計算条件(パラメータ値、電圧範囲)によっては有意な計算結果が得られないことがある。そこで、より精度の高い結果が得られるよう、特に微分方程式の解法を修正する。近似の次数を大きくしたり、計算の時間ステップを調整するなどして、想定されるパラメータ並びに電圧範囲で有意な計算結果が得られる解法を確立する。その後、今年度実装したベイズ最適化を用いてパラメータ最適化に取り組む。その際、電流-電圧特性のみならず、パルス電圧を印加したときの特性も考慮し、これらに近い特性が得られるパラメータを明らかにし、素子構造の際によるパラメータ値の違いも調べることで、モデルパラメータと素子構造との関係を明らかにする。 並行して、モデルの修正を行う。既存のモデルでは、フィラメントを構成する酸素空孔について、電圧印加方向(縦方向)の移動のみを考慮しているが、特性評価の結果、横方向への移動(すなわち、フィラメント径の変化)も考慮する必要があることが明らかとなった。横方向への移動はフィック拡散とソレー拡散を考慮し、これらをモデルに取り込むことで電圧印加方向および横方向双方への酸素空孔の移動を考慮したモデルを構築する。最終的に修正したモデルに基づき、電気特性を計算し、パラメータ最適化を行ったうえで実デバイスの特性と比較することで、修正したモデルの妥当性を評価する。
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