研究課題/領域番号 |
21K14240
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分22030:地盤工学関連
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研究機関 | 東京工業大学 (2022-2023) 京都大学 (2021) |
研究代表者 |
澤田 茉伊 東京工業大学, 環境・社会理工学院, 准教授 (50781077)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2021年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 不飽和土 / 低拘束圧 / 引張試験 / 水分・熱移動 / 蒸発 / 高ポテンシャル / 遺構の展示 / 文化財の保全と活用 / 室内試験 / 水分熱同時移動 / 文化財の保存と活用 / 引張強度 / 乾湿繰返し |
研究開始時の研究の概要 |
水分ポテンシャルの変化は,地盤の変形の駆動力である。表層ほど乾燥し,大気との水分・熱移動の影響を直接受けるため変化が激しい。不飽和土は水分量に応じた土粒子間力を発揮し,低圧下ではせん断・引張破壊の両方が生じる。しかし,既存の不飽和力学は,より深く湿潤で水分変化が小さい領域を想定した試験結果をもとに構築しており,表層への適用性は保証されない。本研究は,引張~低圧縮領域に特化した新しい試験法の構築により,締固め土の低圧下の力学特性を解明し,表層の乾湿に伴う変形評価を可能にすることを目的とする。そして,本評価手法の実践として,乾湿による損傷が著しい地盤遺構の水分制御に応用する。
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研究実績の概要 |
本研究は,締固め土の低圧下の力学特性を解明し,表層の乾湿に伴う変形評価を可能にすることを目的とする。そして,本評価手法の実践として,乾湿による損傷が著しい地盤遺構の水分制御に応用する。具体的には,(研究1)低圧試験法の構築と乾燥過程・再湿潤時の力学特性の評価,(研究2)表層の変形解析法の開発と検証,(研究3)表層の力学評価に基づく遺構の水分制御方法の提案,に取り組む。 研究1では,研究代表者の在外研究と実験室移転のため,試験法の開発が遅れている。ただし,乾燥過程の引張破壊で生じる内部応力の実測について,国際会議(UNSAT)で成果を発表した。また,会議をきっかけにデルフト工科大学での短期滞在の機会を得て意見交換を行い,今後の協力関係を築いた点で大きな成果があった。 研究2は,水分と熱の同時移動を考慮した数値解析の成果を国際会議(アジア会議)で発表した。また,Imperial College Londonでの在外研究において,表層の水分移動・変形に支配的な影響を及ぼす水分特性曲線の間隙スケールでのシミュレーションに取り組み,当初計画以上の成果があった。具体的には,表層の乾湿繰返し時の正確な水分量予測に不可欠な水分特性曲線のヒステリシスのメカニズムを明らかにした。本成果は,欧州でのワークショップ(AlertとGM-3)で発表し,多くの研究者から有益な質問と意見を得た。 研究3では,表層内の空間である古墳石室を対象に,長期温度計測を実施している。熱伝導方程式の理論解を用いた手法をもとに,日射,風,湿度,蒸発が地表面温度に与える影響を考慮できるよう改善し,石室内で実測された温度を精緻に再現できるようになった。解析結果をもとに,墳丘の部分除去を伴う展示を想定して,石材表面の結露量の変化を予測し,覆土を用いた対策法を提案した。成果の一部は国際会議(Crest)で発表済である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者が令和5年4月から令和6年1月までの期間,英国で在外研究を実施した。また,所属する東京工業大学の実験室の移転作業があったため,実験装置を再度セットアップする必要があった。これらの理由により,本課題で予定していた引張試験の実施が遅れている。ただし,在外研究では本課題で対象としている表層の乾湿に伴って生じる水分特性曲線のヒステリシスのメカニズムを数値解析で明らかにする成果が得られた。また,実験室のリニューアルにより,従来よりも実験環境が改善された。さらに,指導する大学院生が2名から11名になり,マンパワーが増加している。新たに得た知識と研究資源を活かして,延長期間に当初目標を達成できるように研究を遂行する。
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今後の研究の推進方策 |
研究1については,これまで単調な乾燥過程での内部引張応力を測定対象にしてきたが,今年度は乾湿繰返し時の内部応力の変化を捉えることを目標にする。具体的には,乾燥過程を中断し,供試体表面に水分を塗布もしくは湿らせた不織布で覆うことで,湿潤過程を設ける。湿潤過程では引張応力のリラクゼーションが起こることが予想される。乾燥過程の応力経路と比較し,ヒステリシスの有無を確認する。表層の乾湿繰返し時の応力・変形のモデル化に役立つ結果が期待できる。また,本実験に関連して,デルフト工科大学の研究者を短期招聘し,デモンストレーションを行い,今後の共同研究に向けた議論をする予定である。 研究2については,これまでに骨格応力を採用した非線形弾性モデルを用いて,単調な乾燥過程で生じる内部引張応力の定量的な再現に成功している。今年度は,研究1で得られる乾湿繰返し時の応力についてもシミュレーションを行い,当モデルの適用性を検証する。また,Imperial College Londonとの共同研究を継続しており,国際会議(AP-UNSATとIS-Grenoble)での成果発表が確定している。これまでに実施した間隙スケールでの保水シミュレーションを発展させ,粒子に作用する力や変形との関係性について考察を深める。 研究3に関連して,古墳の発掘調査中の墳丘の水分制御について,大阪府高槻市と協力関係を結び,本成果の実践の場を得た。年単位の発掘期間中の熱水分移動を解析し,墳丘の水分量予測を行う。すでに原位置では試料を採取し,基礎的な土質定数と解析に必要なパラメータの取得に着手している。解析では,一次元の蒸発実験で解析結果の妥当性検証を行った後,三次元の掘削断面を想定した解析を行う。乾燥対策については,適度な透水性を有する不織布を用いた表層保護を予定している。実験と解析で効果を定量的に示し,現場での利用を提案する。
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