研究課題
若手研究
野鳥は環境を知る重要な指標であるが、調査に大きな手間がかかっている。そのため環境音から野鳥の種を自動的に識別することが試みられてきたが、虫や人工音など多様な環境音のためにうまく行っていない。本研究は、環境音に含まれる野鳥の鳴き声を識別するソフトウェアの技術要素を明らかにし、他の研究者が利用可能な評価用データセットを整備する。また、個体数をカウントする技術を開発する。
研究年度3年目となる2023年度は主に(1)ICレコーダーによる観測地点の増加、(2)識別対象種の増加、(3)オオトラツグミのさえずりへの対応、(4)ウグイスのさえずり初認調査に向けたAIの強化、に取り組んだ。ICレコーダーの設置数を増加させ、ミソサザイやキツツキ類のドラミング音の収集を行った。また、AIの学習手法を工夫することにより、識別対象は全体で野鳥48種、昆虫28種、両生類6種、哺乳類5種、人工音18種と大幅に増加した。AIの精度は、2018年に1か月に渡り収集した沖縄の環境音に対して、ヤンバルクイナの識別精度PR-AUCが0.39となり、2021年度に比べて0.05ポイントの改善を見せた。鳴き声の一部でも検出したとみなすのであれば、95%の鳴き声を検出できている。なお、2022年の沖縄で収録された沢音をヤンバルクイナに誤検出しがちであった弱点はほぼ克服した。識別対象種の数は大きく増加しているが、ヤンバルクイナを含め、全体的に適合率を維持しつつ感度を向上させることができた。また、奄美大島における希少種であるオオトラツグミにも対応し、9割のさえずりを90%以上の適合率で検出可能となった。これにより、さえずりの時間帯や季節変化を世界で初めて定量化できた。加えて、ウグイスの初認能力の向上にも取り組み、音源の収集地においては人力とほぼ同等の感度を実現し、誤検出も充分に少ないことを確認した。ただし、学習やテストに使用していない北海道の音源を予測させたところ、熊本県ではほとんど聞かれない野鳥や野鳥の組み合わせを少数ながら誤検出することを確認した。この様にまだ未熟な点はあるものの、既に調査に利用可能であると考え、予測を行うプログラムと共に一部の学習モデルをGitHub上で公開した。
3: やや遅れている
昨年度に予定していたイカル、カラ類、カケス、サンショウクイを含め、現在の野鳥の識別対象種数は48種である。今後はシジュウカラやルリカケスやアカハラやキツツキ類のドラミングにも対応予定であるので、50種という識別対象の目標数自体はクリアする見込みである。また、ヤンバルクイナやウグイスやヤイロチョウ等の特に注目すべき野鳥以外についても適合率や感度を徐々に向上できている。また、複数のGPUを組み込んだPCを自作することで学習時間の短縮と識別可能な種数の増加に目途が立った。加えて、コンデンサマイクの寿命向上方法をテスト中である。ただし、育児のために当初の計画ほど取り組めていない。特に、野鳥の個体数カウントとデータベースの構築は遅れており、個体数カウントについてはGPSによる時刻同期デバイスが実現できたものの実験データの取得と基本的な検討以上には取り組めていない。
2024年度は、識別対象種の数を目標としていた50以上とすること、オオトラツグミに関する新知見を発表すること、野鳥AIの評価用音源の公開、野鳥個体数の推定に取り組む。全体的な精度の向上には相当な労力を必要とするため、追加の数種に対応した後は目標未達となっているデータベースの公開と個体数のカウント手法の開発に注力する。また、まだ識別対象にできていないムクドリなどの録音も進める。また、本研究は2024年度が最終年度であるので、これまでの成果の発表を積極的に行っていく。
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https://github.com/KatsuhiroMorishita/JPBirdSongClassification