研究課題/領域番号 |
21K14422
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分26040:構造材料および機能材料関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
川原 一晃 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (90869570)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | フッ化物イオン伝導体 / フッ化物複塩 / フッ化物イオン電池 / フルオロアンチモン酸カリウム / 電子顕微鏡 / 全変動正則化 |
研究開始時の研究の概要 |
フッ化物イオン電池は現行のリチウムイオン電池を凌駕するエネルギー密度を持つと期待されている。しかし、材料のフッ化物イオン伝導度が小さいことに由来する複数の課題があり、室温で1mS/cm以上のフッ化物イオン伝導度を示す材料の開発が望まれている。研究代表者は複数のフッ化物の化合物であるフッ化物複塩、KSbF4を新規に合成し、室温で0.1mS/cmのフッ化物イオン伝導度を示すことを見出ている。本研究では、複塩の構成元素や組成を最適化することで、室温で1mS/cm以上のフッ化物イオン伝導度を示す材料を開発する。またイオン伝導メカニズムの解析により、高速イオン伝導体創出の指針を構築する。
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研究実績の概要 |
本研究の目的はフッ化物電池の室温駆動のために、複塩を用いた高いFイオン伝導度を示す固体電解質を創生することである。KFとSbF3の複塩(KSbF4)を加熱すると、沸点の低いSbF3が蒸発し、結晶内にF空孔が導入され、イオン伝導度が向上する。 本年度はイオン伝導経路を拡張する目的でKSbF4にCsを添加し、イオン伝導度の向上を試みた。様々な組成のK1-xCsxSbF4(0<x<0.2)を合成し、伝導度の組成依存を調査した。x=0.08でイオン伝導度はKSbF4に比べて増加し、x=0.08で最大となった。室温におけるKSbF4の結晶粒内、粒界の伝導度はそれぞれ1.6×10-5 Scm-1、5.5×10-6 Scm-1であったのに対し、x=0.08では1.1×10-4 Scm-1、8.1×10-4 Scm-1であり、KSbF4に比べて伝導度が1桁向上した。一方でx > 0.08ではイオン伝導度はKSbF4に比べて低下した。以上から、組成を最適化することで、伝導度を大きく向上可能であることがわかった。 また、電子顕微鏡を用いたフッ化物イオン伝導体の原子分解能観察手法の開発を行った。材料の微細構造解析はイオン伝導メカニズム理解のために重要であり、新材料開発の指針となる。しかし、フッ化物イオン伝導体は電子線に弱く、損傷を避けるために低電子ドーズ量で観察を行う。したがって、原子構造解析を行うには、ドーズ量低下に伴うノイズの除去が必要である。本研究では、固体電解質の骨格構造の一つである蛍石(CaF2)をモデル試料とし、全三階変動正則化を用いたノイズ除去法を提案した。STEM像のコントラストに対応するエントロピーを定義し、最大エントロピー原理に基づいてハイパーパラメータを決定した。ノイズ除去によりF原子が明瞭に可視化され、Fの原子位置を±4 pmの精度で決定することが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度の研究計画は、さまざまな組成の複塩を系統的に合成し、フッ化物イオン伝導度の組成依存を評価し、組成を最適化することである。令和4年度はKよりもイオン半径の大きなCsをKSbF4に添加したK1-xCsxSbF4を系統的に合成し、フッ化物イオン伝導度の組成依存を調査した。Cs添加量を最適化することで、フッ化物イオン伝導度が1桁向上し、室温における結晶粒内、粒界のフッ化物イオン伝導度がともに10-4 Scm-1のオーダーに達することを明らかにした。また、フッ化物イオン伝導体のイオン伝導メカニズム解明のための電子顕微鏡を用いた原子構造解析も目的としている。本年度は全三階変動正則化を用いて、電子線敏感材料であるフッ化物イオン伝導体を原子分解能で構造解析する手法を開発した。本手法により、材料中のF原子を明瞭に可視化することが可能となった。本年度の成果は、イオン半径の異なるイオンを添加し、組成を最適化することで、複塩のフッ化物イオン伝導度を向上させることが可能であることを示し、また、電子線に弱いフッ化物中のF原子を、電子顕微鏡を用いて可視化する手法を確立した結果であり、令和4年度の研究がおおむね順調な理由である。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は複塩の組成を最適化することで、フッ化物イオン伝導度を向上させることを試みた。また、デノイズ手法の開発により、電子線照射に弱いフッ化物中のF原子を、電子顕微鏡を用いて可視化する手法を確立した。今後は、KSbF4のイオン伝導測定の結果をもとに、15族であるリン、ヒ素、ビスマスを含む新規フッ化物イオン伝導性複塩の合成を行う。これらの元素のフッ化物は他のフッ化物に比べて沸点が低く、熱処理によるF空孔導入により高いイオン伝導度の発現が見込まれる。フッ化ビスマス等は難溶性であり、これらの塩を含む複塩を液相で合成することは難しいため、難溶性フッ化物を含む複塩は固相で合成する予定である。また、高いイオン伝導度を示す材料は微細構造解析を行い、高イオン伝導度発現の起源を明らかにし、材料合成にフィードバックする。微細構造解析においては本年度開発した全三階変動正則化を用いたデノイズ手法により、より詳細な構造解析を行う。
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