研究課題/領域番号 |
21K14429
|
研究種目 |
若手研究
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分26040:構造材料および機能材料関連
|
研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
植木 洸輔 近畿大学, 理工学部, 講師 (10845928)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
|
キーワード | 生分解性金属材料 / メカニカルアロイング / 放電プラズマ焼結 / Fe基合金 / 腐食特性 / 機械的特性 / ミディアムエントロピー合金 / 微細組織 |
研究開始時の研究の概要 |
自動車用鋼材等に用いられるFe-Mn-C合金は、優れた機械的特性を有するものの、耐食性が低い。生分解性金属材料として注目されているMg合金やZn合金は、生分解速度が速く、機械的特性も充分ではない。そこで本研究では、これらの合金を融合した新たな合金を設計・開発し、機械的特性および生分解特性を評価するとともに、Fe基合金におけるMgおよびZn添加が微細組織や諸特性に与える影響を明らかにする。
|
研究実績の概要 |
メカニカルアロイング(MA)および放電プラズマ焼結(SPS)によってFe-Mn-Mg合金およびFe-Mn-Mg-C合金の創製に成功した。作製した合金に対し、微細組織分析、硬さ試験、圧縮試験、浸漬試験、電気化学試験を行うことで、Fe, Mn, Mg, Cの合金化プロセス、焼結中の相変態挙動、Mg添加量が機械的特性および腐食特性に与える影響を明らかにした。Mg添加量の増加に伴い、合金化に必要なメカニカルアロイングの実施時間が増加することが明らかとなった。さらに、Mg添加量が10at.%までは60 hのMAを行った合金粉末(MA粉末)の粒径が微細になる一方で、15at.%以上のMg添加によってMA粉末粒径が粗大化することが明らかとなった。相変態挙動については、Mg含有量10at.%MgまではMAによってbcc単相になったのち、SPSによってfcc + hcp二相混合組織が形成されたが、15at.%以上のMgを含有した合金では、MAで合金化したMgがSPS中に相分離する傾向が確認された。炭素添加が組織に与える影響については現時点では確認されていないものの、今後実施予定の熱処理プロセス検討によって、相変態挙動等に影響を与える可能性がある。2023年度は、焼結時の印加圧力を最大500 MPaまで上昇させることでより緻密な焼結体の作製に成功した。 これらの研究成果は、Materials Todays Communication誌に「Development of biodegradable Fe-Mn-Mg alloys by mechanical alloying and spark plasma sintering」というタイトルにて論文が掲載された。さらに国際会議「Biomaterials International 2023」にて口頭発表を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度までの研究成果より、Fe-21Mn-10MgおよびFe-21Mn-10Mg-3C合金が最も緻密な焼結体を形成することが明らかとなっていたことから、本合金系の最適Mg量を10at.%とした。2023年度は、Fe-Mn-Mg-C合金中のMn量が諸特性に与える影響を調査するためにFe-xMn-10Mg-3C(x = 21, 25, 27, 30, at.%)合金を作製した。すべての組成にてbcc+fcc相の二相混合組織を形成しており、Mn, Mg, C単体の回折ピークは確認されなったことから、これらの組成の合金化に成功したと考えられる。MA後の粉末粒径については、Mn含有量の影響は確認されなかった。 MA後の粉末からSPSによって焼結体を作製した。焼結後は、すべての組成でbcc+fcc+hcp相の三相混合組織を形成した。MA中に加工誘起変態が生じ、hcp相が形成されたと考えられる。焼結時の印加圧力を500 MPaとした焼結体は、印加圧力100 MPaで焼結した焼結体よりも密度が高くなった。焼結体寸法および重量から算出した密度については、Mn量の影響は確認されなかったものの、焼結体の電子顕微鏡像においてはMn量の増加とともに炭化物と思われる黒い析出物の量が増加する傾向が確認された。Mn含有量の増加とともに硬さおよび圧縮強度が増加する傾向が確認された。これは炭化物形成の影響の可能性が高い。 腐食挙動については、Mn含有量と腐食速度の間に相関関係は見られなかった。2023年度に実施した浸漬試験においては、すべての試料において浸漬期間中の重量増加が確認された。密度が低い100 MPa焼結体は500 MPa焼結体と比較して重量増加量が多い傾向が確認された。腐食生成物は主にFe, Mgの酸化物、あるいは水酸化物であることが示唆された。
|
今後の研究の推進方策 |
2023年度の研究成果から、Mn含有量の増加によって強度を向上させることができることが明らかとなった。しかしながら、熱処理後の組織や諸特性についてはまだ調査できていない。特に焼結体においては、bccおよびfcc相に加え加工誘起hcp相が形成されていたことから、熱処理によってfcc相単相化を行い、変形中にhcp相を形成させることで、機械的特性のさらなる向上が期待できる。したがって、2024年度は2023年度に合金化に成功した組成の焼結体に対し、500 ~ 700 ℃程度で熱処理を施し、熱処理による焼結体の組織および諸特性の変化挙動を調査する。熱処理は、Ar雰囲気下で行う。熱処理材に対して、X線回折による相同定、電子顕微鏡および電子プローブマイクロアナライザによる組織分析を行うとともに、圧縮試験による機械的特性評価、浸漬試験および電気化学試験による腐食挙動の調査を行う。 これまで実施してきた浸漬試験では浸漬直後に腐食生成物が試料表面を覆ってしまい、正確な腐食挙動の分析ができていなかった。そこで2024年度は流れがある環境下での浸漬試験を実施する予定である。試験溶液をチュービングポンプを使用して循環させることで、試料周囲で溶液の流れを生成する。この動的浸漬試験によって、実際に体内で使用する環境により近い環境の腐食挙動を調査することができると予想される。 本研究は、Fe-Mn-C合金とMgの合金化に着目した研究ではあるが、2023年度までの研究では、合金化した試料の諸特性しか評価していなかった。そこで2024年度はFe-Mn-C合金と純Mgを合金化せずにSPSを用いてFe-Mn-C合金-Mgの金属間複合材料を作製し、その腐食挙動と機械的特性を調査する予定である。
|