研究課題/領域番号 |
21K14526
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分29010:応用物性関連
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 (2022-2023) 京都大学 (2021) |
研究代表者 |
山口 皓史 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 特別研究員 (50898236)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2025年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2024年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2022年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2021年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
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キーワード | 非線形輸送現象 / 非線形Hall効果 / スピントロニクス / 磁気モノポール / リザバー・コンピューティング / スピントルク発振器 / 非線形輸送 / 磁気トンネル接合素子 / グラフェン / スピン流 / スピン輸送 / 多極子 |
研究開始時の研究の概要 |
スピントロニクスでは角運動量の流れであるスピン流の効率的な「生成・伝搬・検知」が重要であるが、既存の概念では飛躍的な効率向上は困難になりつつある。そこで本研究は、スピン流の概念を一般化した「拡張スピン流」を導入することで、従来とは異なる機構で「生成・伝搬・検知」を行うことである。ここで拡張スピン流とは、スピン以外の自由度も考慮した流れのことを指し、軌道や格子、電子以外の粒子の組み合わせや、多極子の対称性を持つ流れなどである。本研究では拡張スピン流の「生成・伝搬・検知」の機構を解明し、従来のスピン流物性現象・効果を拡張スピン流で置き換えたり、スピン流では起こり得ない新奇な現象の開拓を目指す。
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研究実績の概要 |
当該年度においては、前年度に発展させた非線形輸送現象の探索を引き続き行い、新たな発見や進展があった。 電場と温度勾配を互いに垂直に印加した場合に、その両者に直交する方向に電流が流れる非線形Hall効果(Nolinear Chiral Thermo-Electric(NCTE) Hall効果)について論文としてまとめた。この研究では、結晶構造(バンド構造)がカイラルな系において、バンドのトポロジーを反映した量であるBerry曲率や軌道磁気モーメントで記述できることを示した。また、第一原理計算を用いて具体的な物質においてNCTE Hall効果が観測されうることを見出した。さらに、いくつかの実験グループと協力して、NCTE Hall効果の観測に向けて議論を重ねた。 これらはバンド構造に起因して生じることから「内因性」のNCTE Hall効果と呼べるが、当該年度ではさらに磁化構造に起因する「外因性」NCTE Hall効果について調べた。磁化と伝導電子が結合するモデルにおいて、磁化がまばらに存在する離散磁化の場合に調べた。その結果、従来のスピンカイラリティによる(線形の)異常Hall効果が生じる条件に加え、NCTE Hall効果には磁化の3次元的な空間配置が必要であることを見出した。さらに磁化が滑らかに変化する連続磁化の場合にも調べた。その結果、磁化構造が作る「磁気モノポール」数密度に比例してNCTE Hall効果が生じることを発見した。これは2次元におけるトポロジカルHall効果を非線形に拡張したものとみなすことができる。 また、NCTE Hall効果をより一般化し、あらゆる方向の電場と温度勾配に対する電流応答を定式化し、2次元系においてさえも非線形輸送特有の現象が生じることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に目標とした非線形輸送現象の探索が進展したため、概ね順調に進んでいると言える。多極子を用いた輸送現象の探索は今後行っていく予定であるが、これまでの非線形輸送の研究で得た見識を用いて広い範囲で探索が可能であるため、最終目標へと着実に近づいている。
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今後の研究の推進方策 |
非線形輸送現象として、ここまでは電場と温度勾配の積に比例した電流の応答に注目して研究を行ってきた。今後は駆動力・応答ともに異なるものについての研究を行う。 まず、駆動力としては電場や温度勾配だけでなく、(スピン)化学ポテンシャルの勾配など他の駆動力も存在する。これら複数の駆動力による輸送現象の開拓やそれぞれの輸送係数の関係を微視的理論に基づいて明らかにする。また、輸送現象では時間反転対称性の有無も重要で、特に磁場下での輸送特性は重要である。そこで我々の理論にも磁場の効果を取り入れ、本質的に新しい現象が生じるか、生じるならどのような性質を持つかを調べる。さらに、これまでは静的な駆動力に対して計算してきたが、時間的に変化する駆動力の場合にも(原理的には)拡張が可能であるため、時間変化する駆動力による新たな輸送現象についても探索する。 次に、電流以外の応答として、スピントロニクスで重要であるスピン流やスピン密度(スピントルク)に着目する。電場と温度勾配の外積に比例するスピン密度は一部計算を行っているが、応用上より一般の方向や駆動力の場合について調べる必要がある。スピン流の非線形輸送については未解明な点が多く慎重な解析が必要であり、微視的理論に基づいて定式化を行う。 上記の非線形応答の定式化をした後、第一原理計算や実験グループと協力して、実際の物質やデバイスで測定できるようなセットアップの提案と実行をする。 これらの探索が終わったのちに、最終目標である多極子との結合やそのダイナミクス、輸送現象についての解析を行う。
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