研究課題/領域番号 |
21K14550
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分30020:光工学および光量子科学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
栗原 貴之 東京大学, 物性研究所, 助教 (60880151)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2024年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
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キーワード | マグノン / 熱揺らぎ / テラヘルツ / 超高速分光 / 光物性 / 超高速 / 揺らぎ / ノイズ |
研究開始時の研究の概要 |
有限温度の固体中にはフォノンやプラズモン,マグノンなどの素励起が常に熱的に励起されている。室温におけるこれらの揺らぎは数THz程度のエネルギーを持つ。特に磁性体におけるスピン揺らぎは磁気相転移を生じさせる原動力となり,巨視的な秩序を支配していることから,そのダイナミクスの実験的測定は物性の理解において本質的に重要といえる。 ところが現状,こうした超高速領域における揺らぎを実時間測定する手法は未開拓である。本研究では,フェムト秒レーザーが磁性体試料中を透過した際に重畳するパルス毎の偏光ノイズを精密に計測することで,ピコ秒のマグノン揺らぎを自己相関関数として測定する手法を提案し,実証実験を行う。
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研究実績の概要 |
前年度得られた希土類オルソフェライトSm0.7Er0.3FeO3のピコ秒スケールにおける揺らぎ相関ダイナミクスをより高感度に取得するべく,実験系の様々な最適化を行った。対物レンズの高NA化によるプローブスポットサイズの小型化で,揺らぎ信号の絶対強度を一桁近く向上した。またプローブ時間遅延用の自動ステージを高剛性型に入れ替えることでスポットの空間重なりを厳密に規定し,実時間相関ダイナミクス上に重畳していたアーティファクトの除去に成功した。これら光学系の改善により信頼性の高いデータが比較的高速に取得できるようになったため,温度依存性の精密測定が可能になった。その結果,スピン再配列相転移近傍では相関信号の強度が増大するのみならず,そのコヒーレンス時間が劇的に長くなることが分かった。さらに,そのフーリエスペクトルは既知のマグノンダイナミクスと異なる低周波数のピークを持つことがわかった。これらの結果を解釈するために,各副格子スピンの熱的揺らぎダイナミクスを考慮した確率的な大規模Landau-Lifshitz-Gilbertスピンシミュレーションを行った。その結果,未知の低周波ピークがシミュレーションでも再現されることが判明した。計算された磁化の実時間ダイナミクスと実験結果を比較したところ,新たに発見されたスペクトルピークは,再配列相転移温度領域内において存在する磁気異方性ポテンシャル中の二つのエネルギー準安定状態の間で確率的に生じるスイッチングとして解釈できることがわかった。これらの結果は,THz帯域のスピンダイナミクスにおいてこれまで見過ごされてきた確率的ダイナミクスが重要な役割を持つ可能性を強く示唆している。上記の結果は論文にまとめ,現在査読中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
THz帯域におけるインコヒーレントな熱的スピンダイナミクスを高感度に取得できるようになり,シミュレーション結果との直接比較が可能になった。この結果判明した熱的スイッチングというダイナミクスは当初想定されなかった極めて興味深い物理現象である。これらより,当初の予定以上を大幅に超えた進展が得られていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現在査読中の論文と並行して,今年度はこれまで構築した装置に関するマシンスタディの論文を執筆・投稿予定である。このほか,現状チューニング可能なパラメータである温度・スポットサイズ以外の物理量も連続的に変化させることができるよう,実験系の拡張に関する検討を行う。これにより,再配列相転移中における確率的THzスピンダイナミクスのより詳細な物理に関する知見を深めていく。
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