研究課題/領域番号 |
21K14583
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分32010:基礎物理化学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
永田 利明 東京大学, 大学院総合文化研究科, 講師 (80783373)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 物理化学 / クラスター / 気相反応 / 質量分析 / 熱分析 |
研究開始時の研究の概要 |
気相クラスター反応の実験条件は、反応場の分子密度が薄く反応系が真空中にほぼ孤立している反応条件(孤立条件)と、希ガスなど不活性な気体が多数回衝突し熱平衡と見做せる反応条件(熱的条件)がある。孤立条件ではイオントラップ等で反応時間を制御できるが、熱的条件の反応時間は反応場の物理的な長さといった装置構造で決まり、従来の研究では固定値とされていた。本研究では反応場を複数の区画に分割した装置を開発することで、熱的条件における反応時間の制御を行う。これにより、時間に依存した反応系の変化という化学反応における基本的な情報を得られるようになり、気相クラスター反応の実験科学的な理解を深めることが期待される。
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研究実績の概要 |
気相クラスターの熱による反応を解析するため、引き続き気相昇温脱離法を用いて研究を進めている。前年度までに、ケイ素酸化物クラスターおよびアルミニウム酸化物クラスターの水和物の加熱による組成変化について興味深いデータが得られたため、これらについて理解を深めるため実験および理論研究を進めた。 前年度までの実験・理論研究で、ケイ素酸化物クラスターを約1000 Kまで加熱することで最終的に生成する組成は、幾何構造による制約によって決定されることが見出された。これは加熱による水分子の脱離がどこまで進むのかという知見であるが、さらにそれよりも低温(室温~1000 Kの範囲)で起こる水分子の脱離過程について研究を進めることで、ケイ素酸化物微粒子が水分子を吸収・放出する能力(水分子吸蔵能力)について検討した。クラスターに吸着している水分子の数が少ない場合水分子は解離吸着し、水分子が多い場合は水素結合によって分子吸着していると考えられる。量子化学計算と気相昇温脱離実験の結果を比較することで、水分子の脱離に必要なエネルギーは次に脱離する水分子の吸着形態(解離吸着・分子吸着)と対応していること、その吸着形態はクラスターが立体的に無理のない幾何構造をとるように決まっていることが示唆された。これによりケイ素酸化物の微粒子に水分子が吸蔵された状態の挙動が立体構造によって説明できることが、実験と理論で矛盾しない形で示された。 アルミニウム酸化物クラスターについても同様に水分子の吸蔵能力について検討した。Al原子もSiと同様に主に四面体型の配位構造を取るが、一部のAl原子は低配位や高配位の構造も取れることが計算から示唆された。これにより、Si酸化物で見られた解離吸着と水素結合による分子吸着に加えて、Al原子に対する配位結合による分子吸着が水分子吸蔵能力に関与していることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初考えていた、時間可変な加熱反応装置の開発については結局行っていない。研究実績の概要に記したSiおよびAlの酸化物クラスターの水分子との反応は化学平衡条件で行われたため、本研究の目的である速度論的・熱力学的解析という点では専ら熱力学的な知見を得たことになる。これを幾何構造の情報と組み合わせることで興味深い議論が行えたものと考えている。十分にまとまっていないため研究実績の概要では触れなかったが、クラスターによるH2O以外の分子の吸蔵として、金属クラスターと水素(H2)の反応についても調べており、加熱下でこの反応は系中のH2濃度によって熱力学的支配、速度論的支配のいずれの状況にもなり得ることが示唆された。これらを踏まえ、現状の実験装置でも気相クラスターの熱的反応の速度論的・熱力学的知見を得るためにやるべきことが多く残されていると感じている。装置開発という点では、現状はクラスターの構造情報は量子化学計算に頼っているため、当初考えていた反応時間を可変にする装置を開発するよりむしろ、実験的な構造解析を加熱反応と組み合わせた装置を開発し、実験科学に基づいて幾何構造と反応の関係について議論を深めていくのが重要であるという考えに至った。そのため、加熱後の気相クラスターの赤外解離分光装置の開発に着手している。このように、当初の計画と展開が異なっているものの、気相クラスターの熱的条件下での反応の速度論的・熱力学的な知見を得るという本研究の目的に沿った研究成果が得られていることから、進捗状況については概ね順調であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き気相クラスターの熱的条件下での反応研究について進めつつ、加熱と赤外解離分光を組み合わせた装置の設計・開発を進める予定である。赤外解離分光には、予め冷却下でアルゴンなどの希ガス原子を気相クラスターに付着させておくメッセンジャー法が有効であるが、今回目指している装置は、加熱による変化を見たい一方でメッセンジャー法のために冷却をしたいという一見矛盾した要求をはらんでいる。考えられる解決策の1つはメッセンジャー法を用いないというもので、もう1つは加熱による変化を誘起した後でクラスターを再度冷却して希ガス原子の付着を行うというものである。現状は後者の戦略を考えている。いずれにしても挑戦的な課題となるが、気相クラスターの熱的反応について少しでも深く理解することを目指す。
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