研究課題/領域番号 |
21K14643
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分34010:無機・錯体化学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
砂賀 彩光 京都大学, 理学研究科, 特定研究員 (60885416)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | 相対論的量子化学 / 錯体化学 / スピン軌道相互作用 / 配位子場分裂 / ヤーン・テラー効果 / 重元素 / 分子構造 / 多配置性 / 超重元素 / 分子軌道ダイアグラム / X2C法 / 電子相関 |
研究開始時の研究の概要 |
金属錯体の配位子場分裂は現象論としてよく知られているが、重金属錯体の場合は、スピン-軌道相互作用効果(SO効果)を考慮する必要がある。しかし、縮退した分子軌道に関するSO効果を考慮した理論計算は、相対論的多配置法に関する十分な経験が必要であり、汎用ソフトウェアでは不可能である。 本研究では、①多配置性と②SO効果の両方を考慮した相対論的多配置法を用いて、対称性が高い重元素錯体の配位子場分裂を計算する。SO分裂した配位子場分裂の分子軌道ダイアグラムを作成し、将来的に錯体化学の教科書に記載されるような、重元素化学の理論的基盤を構築する。
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研究実績の概要 |
令和4年度は、第6周期元素を含んだ6フッ化物XF6(X=Re, Os, Ir, Pt, Au, Hg)の構造最適化をスピン軌道(SO)相互作用を含んだ相対論的多配置配置間相互作用(MRCI)法を用いて実施した。分子軌道は平均配置法を用いて計算した。ハミルトニアンには厳密2成分法(X2C)を用いた XF6に対して、赤道面上の4つのF原子と、軸上の2つのF原子の核間距離をそれぞれ変えて計算を行ない、得られた離散的なポテンシャルエネルギー曲面(PES)を多項式展開でフィッティングすることで、XF6錯体の平衡構造を探索した。 ReF6はヤーン・テラー(JT)効果による歪み構造(D4h)、IrF6とHgF6は正八面体構造(Oh)が平衡構造となり、先行研究における内殻ポテンシャル(PP)を使用したCCSD(T)法の計算と同様の傾向が得られた。OsF6については、歪み構造が得られたものの、歪みの度合いはPP-CCSD(T)法より小さかった。その理由は、当研究ではSO相互作用により正八面体構造においても分子軌道が分裂しているため、歪みによる安定化が少なくて済むためだと考えられる。 PtF6については、PESを描く過程でイオン結合的な電子状態と共有結合的な電子状態の2種類の電子状態が現れた。AuF6については、PESを描く過程でSCFが収束しない構造が現れた。PtF6とAuF6については、他の錯体の場合より小さいステップ幅を用いて、平衡構造の近傍のみに注目して構造最適化計算を実施中であるが、途中経過は良好である。 XF6錯体の構造におけるSO相互作用の影響を調べるため、SO相互作用を含まないスピンフリー(SF)相対論法を用いた計算も開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下のように、研究を行う過程で困難に直面したものの、解決法を見出すことができたため、おおむね順調に進展していると判断した。 1)MRCI法では行列要素を対角化して電子状態を計算するため、仮想軌道の数が増えると、計算時間が膨大になる。そのため、摂動法や結合クラスター法等の電子相関法と比べると、MRCI法では考慮する仮想軌道を低いエネルギー準位で打ち切る必要がある。構造を変化させる時に、仮想軌道のエネルギー準位が変わってしまい、スムーズなPESが描けない、という問題が発生した。予定していた活性空間より大きな活性空間を用いることで、この問題を解決した。 2)PtF6とAuF6について、予期しない電子状態および収束の問題が現れた。両者ともに、ステップ幅を狭めて平衡核間距離の極近傍のみを計算することで、計算の途中経過については、安定した計算を行うことに成功した。 3)SF相対論法のプログラムでは、計算のinputにおいて、活性空間に含める軌道数のエネルギー準位の両方を一致させて入力する必要がある。一方、構造を変化させると、同じエネルギー準位でも軌道数が変化してしまうという問題が発生した。そこで、軌道数を固定して、その軌道に対応する軌道エネルギーを指定するためのプログラムを作成することで、スクリプトを用いて自動的にPESを計算できるようにした。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、SO相互作用込みの相対論法、SF相対論法ともに、構造最適化計算を続行し、各XF6錯体における平衡構造を特定する。SF相対論計算については、各XF6において考えられるスピン状態を全て計算する。当研究の計算結果と、先行研究の単配置PP-CCSD(T)法の計算結果を比較することで、6フッ化錯体の構造におけるSO相互作用および多配置性の影響を明らかにする。参照データとなる計算はMRCI法を用いて行うが、MRCI法で得られた結論が軌道描像でも定性的に説明できるかどうか検討する。 平衡構造が得られたら、電子励起状態計算を行うことで、SO相互作用に起因した励起スペクトルの分裂を示す。構造最適化計算では、電子基底状態を計算するため、SO分裂後の低エネルギーの仮想軌道に優先的に占有数を指定した。一方で、電子励起状態計算を行う際は、配位子場分裂におけるSO分裂した仮想軌道も、SCF計算で最適化する必要があると考えられる。
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