研究課題/領域番号 |
21K14674
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分35010:高分子化学関連
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
小野 皓章 九州大学, 水素材料先端科学研究センター, 特任准教授 (20778899)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 水素分子 / 高分子 / 分極 / 赤外活性 / 水素 / 赤外分光 / 誘起双極子 / 振動分光 / NMR / 電場誘起 |
研究開始時の研究の概要 |
通常、左右対称な構造の水素分子は赤外線を吸収しないが、高分子に溶け込むと赤外線を吸収することができるようになる.これは、水素分子の構造が歪んだ証拠である.本研究は、水素分子の歪みと、高分子固有の性質との関係を明らかにすることを目的とする.本研究によって上記の関係が明らかになると、高分子中の水素分子が吸収する赤外線量を調べることで、水素分子が存在する高分子中の微小空間の大きさや構造を間接的に知ることができるようになる.
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研究実績の概要 |
水素分子は通常、赤外線を吸収しない.ところが、固体の高分子に溶解した状態では、赤外線を吸収するようになる.水素分子は水素原子核二つが結合した鉄アレイのような形状をしており、その鉄アレイの周囲を長手方向に左右平等な形状の電子の“雲”が覆っている.この電子の雲の対称性が失われると、電気的な偏りが生じる”分極”と呼ばれる状態になる.この時、水素分子は赤外線を吸収するようになる.この状態は、水素分子が他の分子に衝突して電子の雲が歪む場合や、電場の中に置かれることによって生じることがわかっているが、高分子中の水素の分極がどちらに起因するのか、もしくはどちらの影響が強いのか、が現状では明らかになっていない.本研究は高分子に溶解した水素分子がなぜ分極するようになるのか、を明らかにすることが目的である. これまでの検討から、吸光係数のみならず、吸収波長がポリマー化学構造と相関することが、実験および量子化学計算の結果から明らかとなった.しかしながら、観察される水素の吸収はポリマーの吸収と重なっているため、現時点では吸収ピークが単峰なのか、ショルダーを有するのかなど、明確な結論を得られていなかった.そこで今年度は、高分子材料中の水素分子の吸収バンド形状を明確に観測することを目的として、重水素化ポリマーやフッ素化ポリマー中の水素分子の赤外吸収スペクトル測定を行うため、重水素化モノマーやフッ素化モノマーの重合や、試験片を成型する条件などについて検討した.また、二相系ポリマーブレンドにおける水素分子の吸収ピークや強度について検討を行うため、ETFE/EVOHブレンド系について、ブレンド比と吸収スペクトルの比較を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
水素分子のスペクトル形状を観測する目的で行っている重水素化ポリマーおよびフッ素化ポリマーの重合および成型条件について検討を行い、測定に適した試験片の作成条件を概ね確立した.測定に適した水素曝露圧力条件についても、通常のポリマーと同様の圧力で問題ないことを確認した. ポリマーブレンド中の水素の吸収スペクトル測定の結果、見かけの吸収ピーク位置がブレンド比に比例することが明らかになった.これまでの結果同様、ポリマーの極性によってピーク位置が変動する結果となっており、電場による水素の分極に伴い赤外活性が発現するという仮説を支持するものとなっている.ただし、これが実際に単峰ピークなのか、二つの独立したピークが重なり合った結果なのかについて、各種シミュレーションを行い、その結果を確認中である. これまで検討してきた1H-NMRによる水素分子のケミカルシフトの計測であるが、多くのポリマーでその計測が困難であることが判明した.一方で、低磁場の時間領域1H-NMRを用いることで、水素のプロトン核スピンの横緩和時間(T2)を計測することが可能であることがわかった.このT2も、ケミカルシフト(電子雲の偏りによって、どれだけ原子核が露出しているかの尺度)と同様に、水素分子が存在する環境に左右される.このため、今後は水素分子のT2に着目し、赤外吸収ピークとの比較を行なっていくこととした. 以上の通り、「ポリマー中の水素分子はポリマー鎖の電場によって生じる」という仮説について、吸光係数のみならず吸収波長も支持する結果を示した.また、高分解のNMRについては計測に困難が生じたものの、T2の計測は可能であることがわかり、当初計画していた赤外分光と核磁気共鳴双方をプローブとした研究が推進可能であることが分かった.よって、進捗状況を「概ね順調に進展している」と判定した.
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今後の研究の推進方策 |
現在までのところ、重水素化ポリマーやフッ素化ポリマー試験片の作製条件や曝露圧力などの条件の確立を完了している.したがって今後は、ピーク形状やピークの数について明らかにすることを目的として、重水素化ポリマーやフッ素化ポリマー試験片を作製し、水素曝露の赤外スペクトル測定を行い、水素分子の吸収ピーク形状について解析を行う.さらに、この結果を踏まえて、通常のポリマー中の水素分子の吸収ピークについて、カーブフィッティングによる分離手法について検討する. また、上記ポリマーに加えて、これまで検討してきた各種ポリマー(アモルファスポリマー、結晶性ポリマー、ネットワークポリマーなど)について、時間領域NMRを用いて水素分子のT2の評価を行い、赤外吸収ピークと関係について検討する.
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