研究課題/領域番号 |
21K14697
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分35030:有機機能材料関連
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
相賀 則宏 兵庫県立大学, 理学研究科, 助教 (50847085)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 走査型トンネル顕微鏡 / 探針増強ラマン散乱 / TIPS-ペンタセン / 局在表面プラズモン / 極短パルスレーザー |
研究開始時の研究の概要 |
有機半導体分子の物理的化学的性質と個々の分子周りの局所環境の間の関係を解明するためには、原子サイズレベルの高い空間分解能をもつ分光測定を行う必要がある。本研究では走査型トンネル顕微鏡のトンネル接合部位に極短パルス光を照射し、局在表面プラズモンを利用した各種線形分光・非線形分光を試み、有機半導体単一分子レベルでの分光情報を得る。特にペンタセン・ルブレン・ペリレンなどの多環芳香族分子に対して、分子周りの局所環境と分子の構造や物理化学的性質との相関を明らかにする。本研究によって有機半導体素子の動作機序の解明に資する知見を得ることを目指す。
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研究実績の概要 |
有機半導体素子の特性を決定する分子の物理化学的性質は、分子の構造やその電子状態によって大きく左右される。これらの性質は個々の分子の置かれた周囲の局所的な環境に依存する可能性があるため、分子の周囲の局所的な環境と分子構造・電子状態との間の関係を、分子レベルで解明する必要がある。本研究課題では、超高真空走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いて実空間で分子の吸着構造をナノイメージングするとともに、STM探針直下のトンネル接合部位にレーザー光を照射し、探針-基板間のナノ領域に生じる局在表面プラズモンによる電場増強を利用することによって単分子レベルの分光計測を行う。 令和4年度は、有機半導体素子への応用が期待される6,13-bis(triisopropylsilylethynyl)pentacene(TIPS-ペンタセン)分子等の有機分子を観測対象として、STMトポ像の観察および単一分子レベルでの探針増強ラマン散乱(TERS)分光を行った。 清浄な銀(111)基板の表面の上に蒸着した分子の吸着状態をSTMトポ像で観察した。STM探針を基板に接近させた状態で探針先端部にレーザー光を照射し、そこから発生する分光信号を効率よく検出するための実験方法を確立した。STM銀探針にTIPS-ペンタセン分子を吸着させた後、次に銀探針を銀(111)基板に接近させたときのみ、TIPS-ペンタセンに由来するとみられるTERS信号を観測した。興味深いことに、TIPS-ペンタセン分子のラマン活性な振動モードに加え、本来ラマン不活性・赤外活性なモードも観測されることがわかった。この結果を銀と分子が接触することによる分子構造の対称性の変化に基づいて理解できることを提唱した。 以上の結果は査読付き学術誌2本に掲載され、第16回分子科学討論会において報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
清浄な銀(111)基板上にTIPS-ペンタセン等の有機分子の単分子層を蒸着することで形成した分子層のSTMトポ像を液体窒素温度で観測することにより、銀(111)基板上での分子の吸着構造を調べた。 また探針増強電場下での単一分子分光を行うために、STM探針を試料基板のトンネル電流領域まで接近させた状態で探針先端部位にレーザー光を照射した。探針先端近傍の実空間像を参照することにより、レーザー光の入射および探針電場増強信号の検出を最適化する実験方法を確立した。さらにSTMの銀探針に分子を吸着させた状態で単一分子TERSスペクトルの観測を行った。得られたスペクトルを、溶液中で別途測定した赤外吸収スペクトルおよびラマン散乱スペクトルと比較することにより、分子のラマン活性な振動モードに加えて、赤外活性な振動モードもTERSで観測されることを見出した。これらのスペクトル形状の特徴が分子構造の対称性の変化の観点に基づいて理解できることを提唱し、銀と吸着分子の電子状態の相互作用に関する知見を得た。 以上の成果は、査読付き学術誌2本に掲載され、また第16回分子科学討論会において報告した。 また令和5年度以降に実施するパルスレーザーを用いた実験に向け実験条件の検討を行った。以上を踏まえて、本研究課題はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまで培ってきた連続光を用いた探針増強ラマン散乱の実験技術を、パルスレーザー光を光源として用いた測定にも応用することによって、探針増強電場下における非線形分光も含めた種々の分光測定を試みる。フタロシアニンやポルフィリン等の有機分子を対象に選び、銀単結晶基板上に構造を制御して蒸着した分子膜、さらに単一分子に対してパルスレーザーを用いた分光測定を試みる。 STMを用いて蒸着分子のトポ像を観察した後、目標とする分子の上にSTM探針を接近させて探針直下の分子の分光計測を行う。パルスレーザー光源をSTMチャンバー内に導入する際には、中空ファイバーを用いてSTM装置の脇までパルスレーザー光を導いた後、STMチャンバー内の探針先端部に照射する。 電子状態の観測には、紫外可視吸収分光に相当する情報が得られると期待される非線形分光である電子和周波発生分光を試みる。振動状態の観測として非線形ラマン分光であるハイパーラマン散乱分光やコヒーレントアンチストークスラマン散乱分光を試みる。実験で得られたスペクトルに併せて量子化学計算の結果も参照することで、吸着分子の振動構造や電子状態を考察する。特に分子周辺の局所環境(基板のテラス・ステップ、隣接分子との距離や凝集効果など)が分子の電子状態や振動状態に対して与える効果について明らかにする。
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