研究課題/領域番号 |
21K14742
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分37010:生体関連化学
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
松本 咲 甲南大学, 先端生命工学研究所, 特任教員(助教) (50850822)
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研究期間 (年度) |
2021-02-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
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キーワード | 細胞老化 / 核酸非標準構造 / グアニン四重らせん / 分子クラウディング / RNA構造 / 翻訳 / 核酸非二重らせん構造 / 遺伝子発現 / 定量的解析 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、老化による細胞内の化学環境の変化が細胞機能に及ぼす影響を、核酸の構造及び熱的安定性から定量的に理解することを目指す。具体的には、外部刺激による影響をより受けやすいと考えられる細胞質の環境変化と、それに応じて変化するであろうRNAの構造および熱安定性の変化によって制御される翻訳反応の機構を定量的に解析する。 これにより、細胞の大きさの制御メカニズムや細胞老化メカニズムの解明が期待できる。また、周辺環境を変化させることにより核酸の構造を制御することができれば、従来の核酸を標的とした創薬とは異なる老化関連疾患の治療戦略の確立が期待できる。
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研究実績の概要 |
細胞の大きさは細胞機能を維持するために厳密に制御されている。その一方で、がん細胞では小さく、老化細胞では大きくなる。近年、細胞を肥大化させると、細胞内遺伝子発現が変化し、老化細胞様の形質が発言することが報告された。また、老化による細胞の肥大化により、細胞質の濃度が低下することも示唆されている。細胞が自身の大きさを制御するメカニズムや細胞老化メカニズムの解明は、老化関連疾患治療戦略の確立に必須であるものの、細胞内環境の変化が遺伝子発現に及ぼす影響については未だ理解されていない。 本研究では、細胞サイズの変化による細胞質の分子環境の変化が遺伝子発現に及ぼす影響を、核酸の構造および熱安定性から定量的に理解することを目指す。そのため、下記の2ステップに分けて研究を行う。(1)In vitroにおける分子クラウディングが翻訳に及ぼす影響を明らかにする。(2)老化細胞における核酸構造による翻訳制御機構を明らかにする。 令和4年度は(2)について検討した。ヘアピン構造やグアニン四重らせん構造などの高次構造を形成するRNAが転写されるテンプレートDNAとなるプラスミドベクターを遺伝子工学実験により設計、取得した。プラスミドを正常細胞および継代により老化した細胞に導入し、導入した遺伝子の発現を調べた。その結果、老化が進むにつれて翻訳効率の低下が観測された。またその翻訳効率の低下は安定な構造を形成するRNAほど顕著であった。令和5年度は老化が転写に及ぼす影響についてもqPCRを用いて調べ、老化の促進と翻訳効率の低下との関連を詳細に明らかにする予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和4年度は、上述した(2)の、老化細胞における核酸構造による翻訳制御機構について検討した。老化研究でもちいられているWI-38細胞およびIMR-90細胞に、令和3年度の(1)の研究で作製したプラスミドDNAをトランスフェクションした後、ルシフェラーゼの発光量を測定することで遺伝子発現効率を算出した。購入してから間もない細胞を正常細胞とした。また継代を続けることにより複製老化した細胞を老化細胞として、遺伝子発現効率を算出した。その結果、継代が進むにつれて、遺伝子の発現量の低下が観測された。また遺伝子発現の低下の度合いはテンプレートのRNAがより安定な構造を形成するほど大きかった。これは、老化が進むにつれて細胞内の分子クラウディングの度合いが低下し、ヘアピンなどの標準構造をもつRNAからの遺伝子発現量は低下する一方でグアニン四重らせんなどの非標準構造をもつRNAからの遺伝子発現量は上昇するという予想とは逆の結果であった。 老化に伴う細胞の混み合いを検証するため、生細胞のみを蛍光染色する試薬を用いて、蛍光顕微鏡を用いた3D観察により、細胞の体積分布を算出したところ、継代が進むにつれて明らかに細胞のサイズは大きくなっていた。しかしながら、pH、カリウムイオン濃度、ナトリウムイオン濃度、及び誘電率などは老化が促進しても大きく変化しなかった。さらに老化促進が転写に及ぼす影響も調べるために、プラスミドをトランスフェクションした細胞からRNAを抽出し、RT-qPCRによりRNA量の定量を検討中である。これらの結果は、老化促進に伴い細胞内環境が大きく変化しない可能性や、老化が翻訳系自体に影響を与えている可能性を示唆している。老化細胞においての検証は順調に進んではいるものの、予想していた結果とは異なったことによる追加の実験が必要となり、研究はやや遅れていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は、令和4年度に引き続き(2)の研究を遂行する。これまでの結果を踏まえ、老化細胞における翻訳量がテンプレートRNAの有する構造による制御機構を明らかにする。令和4年度から検討を始めている、老化が転写に及ぼす影響について検討する。具体的には、プラスミドをトランスフェクションした細胞からRNAを抽出し、RT-qPCRによりRNA量を定量することにより議論する予定である。またリボソームプロファイリングアッセイなどにより、リボソームが停滞しやすい位置を検証し、それが老化やRNAのもつ構造によりどのように変化するのかを調べることにより、老化細胞で観測された翻訳量の低下のメカニズムについて定量的に明らかにすることを目指す。
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