研究課題/領域番号 |
21K14860
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分39050:昆虫科学関連
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研究機関 | 東京大学 (2023) 金沢大学 (2021-2022) |
研究代表者 |
國生 龍平 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任研究員 (90756537)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | カイコ / バキュロウイルス / 宿主行動操作 / T3up1 / ノックイン / 行動操作 / コンディショナルノックアウト |
研究開始時の研究の概要 |
自然界では、病原体や寄生生物が宿主の行動を操る現象がしばしば見られる。しかし、彼らがどうやって行動を操るのか、その仕組みには謎が多く残されている。申請者は行動操作のモデルケースとして、バキュロウイルスとその宿主であるチョウ目昆虫を材料に研究を進めてきた。その結果、バキュロウイルスが宿主昆虫の脳に感染し、ある宿主遺伝子(T3up1)を自分のために利用している可能性が浮上した。そこで、本研究課題ではコンディショナルノックアウト技術をカイコに導入することで、このT3up1遺伝子がもともとカイコでどのような用途で使われており、それをウイルスがどのように制御しているかを明らかにしたいと考えている。
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研究実績の概要 |
病原体や寄生生物による宿主行動の利己的な操作は自然界で普遍的に見られる現象だが、その詳細なメカニズムには未解明の謎が多く残されている。申請者は行動操作のモデルケースとして、バキュロウイルスとその宿主であるチョウ目昆虫を材料に研究を進めてきた。その結果、バキュロウイルスは宿主昆虫の脳に感染し、ある宿主遺伝子(T3up1)の発現を上昇させることで脳の行動制御中枢の活性を操っている可能性が示唆された。そこで、本研究課題では宿主昆虫におけるT3up1の本来の機能を明らかにし、バキュロウイルスによるT3up1発現操作の具体的な分子メカニズムに迫ることを目標とする。 令和5年度は、anti-T3up1抗体を2種類作出してT3up1タンパク質を検出できるか調査した。野生型カイコ3齢幼虫の腸管を用いて蛍光免疫染色を行った結果、2種類のうち片方の抗体を用いることで腸管に付着した一部の神経様細胞を特異的に染色できた。このような染色パターンは前年度に行ったT3up1-2A-GAL4>GCaMP6fカイコを用いた蛍光免疫染色と類似していたことから、作出したanti-T3up1抗体は免疫染色に使用可能であり、T3up1-2A-GAL4系統はT3up1のnativeな発現パターンを再現できていると推測される。 また、令和5年度は高感度・高S/N比のin situハイブリダイゼーション手法であるin situ hybridyzation chain reaction (HCR)をカイコに導入することを試みた。カイコ5齢3日の脳においてptthおよびactin A3 mRNAに対するプローブを用いてホールマウントin situ HCRを行ったところ、良好な染色像が得られた。今後はこの方法を用いることでT3up1発現細胞の性状を明らかにする予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度はanti-T3up1抗体を作出しその性能を評価した結果、免疫染色に利用可能な抗体を作出できたことが明らかになった。この抗体を用いることで、T3up1-2A-Gal4カイコ系統以外の系統でもT3up1の発現レベルや発現部位を解析できるようになったほか、T3up1タンパク質の細胞内局在や分泌、相互作用因子の探索などが行えるようになったことは非常に大きな進展である。 また、in situ HCR法をカイコに導入し、カイコホールマウント脳において高感度・高S/N比でmRNAを検出できるようになった。T3up1は発現量が非常に低く、特にウイルス非感染の脳において検出が困難であるため、mRNAを1分子レベルで検出できると言われるin situ HCRを導入できたことはT3up1の発現変化を明らかにするうえで非常に重要である。加えて、近年カイコ脳のシングルセルRNA-seq解析を行った結果が報告され(Liu et al., Insect Sci., 2023)、キイロショウジョウバエにおける神経/グリア細胞サブタイプのマーカー遺伝子の一部はカイコにおいても利用可能であることが示唆されている。これらの遺伝子を対象にin situ HCRを行うことで、T3up1発現細胞の特徴を明らかにできると期待している。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までにT3up1発現細胞が脳および食道下神経節の一部領域に存在するグリア様細胞であることが明らかになったので、次年度はanti-T3up1抗体を用いたウエスタンブロッティングや免疫染色実験を行うことで、T3up1 mRNA発現についてはin situ HCRを行うことでT3up1発現の詳細なプロファイルを調査する。また、T3up1の作用機序を明らかにするため、ウイルス感染脳を用いてanti-T3up1抗体による共免疫沈降を行い、T3up1と相互作用するタンパク質を探索する。 T3up1を介した宿主行動操作メカニズムが他のバキュロウイルスーチョウ目昆虫間でも保存されているかを明らかにするため、BmNPVークワコ、AcMNPVーハスモンヨトウ、LdMNPVーマイマイガの感染・行動観察実験系を構築する。また、これらの実験系で実際にウイルスによるT3up1の発現操作が行われているか検証する。
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