研究課題
若手研究
発熱植物はソテツやスイレンなど祖先的な植物を中心に80種ほどが知られている。一般に発熱形質は匂いの拡散による訪花者の誘引に寄与すると考えられているが、寒冷地で発熱する唯一の植物であるサトイモ科のザゼンソウ属では発熱が寒冷適応に関連している可能性がある。その場合、最終氷期における分布縮小の緩和や訪花者の滞在時間が伸びることによる集団隔離、より低温な高標高への進出などに発熱形質の寄与が考えられる。そこでザゼンソウ属を対象として、発熱形質が種内の多様性や種分化にどのように寄与したかを検証する。
寒冷地で雪の残る時期から開花する発熱植物として現在唯一報告されているザゼンソウ属の発熱形質が寒冷適応に寄与しているとすると、ほとんど発熱しないヒメザゼンソウと比べて最終氷期の分布縮小や集団隔離の程度などに差異が生じると考えられる。その痕跡を現在の分布情報から検出するために、ザゼンソウとヒメザゼンソウを対象として機械学習アルゴリズムに基づくMaxEntを用いた生態ニッチモデリングによって生育適地の推定と遺伝的多様性の解析を実施した。現在の分布の決定に最も寄与する環境要因が両種とも冬期の降水量であり、積雪の重要度が示唆された。両種の現在の分布の重複の程度を評価するために、999回のランダムサンプリングから帰無分布を構築してNiche identity testとsymmetric background testによって検定したところ、ランダムと比べて有意に生育範囲が異なっており、近縁種間でニッチ分割が見られた。現在よりも寒い最終氷期から現在よりも温かい完新世中期、現在との経時的な分布の変化を予測すると、ほとんど発熱しないヒメザゼンソウは最終氷期には南方に広く分布しており、暖かくなるにつれて分布の大きさを維持しながら北へ移動した。いっぽうで発熱するザゼンソウは最終氷期には広範に分布しており、暖かくなるにつれて分布が大きく変化することなく分布が縮小していることがわかった。日本各地のザゼンソウ、ヒメザゼンソウに対して次世代シーケンサーを用いた葉緑体のrbcLとpsbA-trnH領域の配列決定と、核のSNP情報をゲノムワイドに得られるMIG-seq法を実施した。葉緑体、核ともに発熱するザゼンソウでより遺伝的多様性が高いことが示され、両種の分布の変化パターンを支持する結果となった。以上の成果は国際学術誌へ掲載された。
2: おおむね順調に進展している
ここまでの成果が国際誌「Ecology and Evolution」へ掲載された。現在、発熱種と非発熱種でどのような領域に遺伝的多様性に差があるかの探索と自然選択の痕跡の検出のためのザゼンソウの新規ゲノム決定を進めている。
発熱種と非発熱種でどのような領域に遺伝的多様性に差があるか、自然選択の痕跡が見られるかを検出するためにザゼンソウの新規ゲノムを決定した。ほとんどすべての遺伝子を決定できているため十分に利用可能であると考えられるが、現状では染色体レベルの精度までは達していない。特にヒメザゼンソウは2倍体であるのに大してザゼンソウは4倍体であるため、そのゲノム構造の差異は重要かもしれない。そこでゲノムの3D構造から近傍領域を特定するHi-Cを実施して染色体レベルを目指す。またヒメザゼンソウも新規にゲノムを決定する。
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すべて 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 1件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
Ecology and Evolution
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https://www.kazusa.or.jp/news/230801/