研究課題
若手研究
慢性骨髄性白血病(Chronic myeloid leukemia: CML)の更なる治療成績の向上や根治に向け、病態形成の元と考えられる白血病幹細胞(Leukemic stem cell: LSC)の詳細な解析とこれを標的とした治療法の開発が求められている。本研究では、ヒト由来幹細胞にゲノム編集技術を応用して病態の原因であるBCR-ABL1融合遺伝子を誘導し、様々に状態・形質を変化させたCML-LSCを樹立し生体内の病態により近いCMLモデルの構築を目指す。
本研究申請ではCRISPR/Cas9を用いて融合遺伝子BCR::ABL1を生成することにより、実際の病態を精確に再現する。昨年度までの報告では、サイトカイン依存性増殖を示す白血病細胞株TF-1において、CRISPR/Cas9を用いて9番染色体のABL1遺伝子と22番染色体のBCR遺伝子に対してDNA二重鎖切断を同時に引き起こすことで、分子量の異なるBCR::ABL1のうち、慢性骨髄性白血病に特徴的な分子量210のBCR::ABL1と急性リンパ性白血病に特徴的な分子量190のBCR::ABL1を生成することに成功した。これらの細胞亜株において、STAT5B経路の恒常的活性化による細胞の不死化プロセスをRNA-seqによる網羅的遺伝子解析およびタンパク質のリン酸化解析などを用いて明らかにした。さらに、RNA-seqの結果からp210 BCR::ABL1に特徴的な発現遺伝子を明らかにし、これらがtyrosine kinase inhibitorであるImatinibの投与によりp210細胞株特異的に抑制されることを明らかにした。以上の結果について複数回の学会発表を行い、さらに成果を原著論文「Creation of Philadelphia chromosome by CRISPR/Cas9-mediated double cleavages on BCR and ABL1 genes as a model for initial event in leukemogenesis」としてCancer Gene Therapyへ投稿し受理された。本研究の経験をもとに、技術情報協会より発行される専門書「ゲノム編集の最新技術と医薬品・遺伝子治療・農業・水畜産物・有用物質生産への活用」において、「CRISPR/Cas9 によるゲノム編集技術を用いたフィラデルフィア染色体の生成」を掲載した(ISBN:9784861049781)。
2: おおむね順調に進展している
理由昨年度までの成果について、論文報告・学会報告に引き続き、本技術の詳細を専門書において掲載することができた。
昨年度に進めることのできなかった以下の研究を進める方針である。臍帯血や末梢血造血幹細胞などの多能性幹細胞にCRISPR/Cas9を使用してBCR::ABL1を生成する。BCRとABL1のゲノム安定性に関する知見を深めることで、自然発生的にBCR::ABL1が生成される条件について検討する。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) 図書 (1件)
Cancer Gene Therapy
巻: 30 号: 1 ページ: 38-50
10.1038/s41417-022-00522-w