研究課題/領域番号 |
21K15602
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分50020:腫瘍診断および治療学関連
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
加藤 侑希 日本大学, 医学部, 助教 (60733649)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 免疫チェックポイント阻害薬 / がん微小環境 / immunoresistance / 脂質代謝 / 免疫抑制 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、研究代表者のこれまでの成果に基づき、マウス腫瘍モデルと各種ヒト腫瘍の解析を並行して進めることにより、脂質代謝異常とがん免疫応答の関係を解析し、その細胞分子機構を解明するとともに、制御法を開発することにより、免疫チェックポイント阻害薬などのがん治療におけるバイオマーカーの同定やPD-1/PD-L1阻害を基軸とした効果的な複合がん免疫療法の開発のための基盤を構築することを目指す。
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研究実績の概要 |
SCD1 阻害剤を腫瘍モデルマウスに全身投与すると、がん細胞においてはWnt/β-catenin シグナルの抑制を介して、また、CD8陽性T細胞においてはER stress pathwayの制御を介して、CCL4の産生が増強されることを明らかとした。加えて、SCD1阻害によるCCL4の高産生は、腫瘍への樹状細胞およびCD8陽性T細胞の浸潤・蓄積を促進し、結果として抗腫瘍免疫応答を増強していることを示した。さらに、SCD1阻害剤が、樹状細胞とCD8陽性T細胞に直接作用し、その機能を増強することも明らかにした。SCD1の阻害により、抗腫瘍免疫応答が増強されることが示唆されたため、担癌マウスモデルにおいて、SCD1阻害(阻害剤およびSCD1 KOマウス)と抗PD-1抗体の併用効果を評価すると、いくつかの癌種では完全奏効が認められ、SCD1阻害剤が抗PD-1抗体の治療効果を増強する可能性が示唆された。 次に、抗PD-1抗体治療前の肺癌患者血清を用いて、SCD1活性、および関連脂肪酸が抗PD-1抗体のコンパニオン診断薬として有用であるかの検討を行った。その結果、抗PD-1が奏効する患者では、奏効しない患者に比し、SCD1が生成する脂肪酸であるパルミトレイン酸およびオレイン酸の血清中濃度が有意に低いことが明らかとなった。さらに、患者血清中のSCD1活性に相当する脂肪酸比が低い方が、抗PD-1抗体治療後の予後が良好であることも明らかとなった。このことより、血清中のSCD1活性および関連脂肪酸が、抗PD-1抗体療法含む免疫療法適応症例の選択を可能にするバイオマーカーとなりうる可能性が示唆された。 この研究成果は、専門誌の中ではトップジャーナルの1つであるJournal for Immunotherapy of Cancer誌で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の主な目的は、1) SCD1の阻害により、抗腫瘍免疫応答、及び、免疫チェックポイント阻害薬の治療効果を増強できるかの検討、2) ヒトがん細胞及びヒト免疫細胞に対するSCD1阻害薬の直接作用の検証、3) SCD1が免疫チェックポイント阻害薬の治療効果予測マーカーとなるかの検討、4) 既存のSCD1阻害薬より活性の強い阻害薬のスクリーニングである。 1)においては、SCD1阻害薬は、抗腫瘍T細胞のERストレス減弱により、抗腫瘍活性を増強すること、またがん細胞のβ-cateninシグナルと転写因子ATF3抑制による樹状細胞リクルートケモカイン(CCL4等)の産生増強により、抗腫瘍T細胞応答を増強することを明らかにした。2)においては、SCD1阻害薬が、CD8+ T cellおよびDCに直接作用し、それらの抗腫瘍活性を増強することを明らかとした。一方で、そのメカニズムに関しては未だ不明のままであり、今後更に解析を進める予定である。3)においては、肺がん患者少数例の検討ながら、SCD1および関連脂肪酸が、抗PD-1抗体のコンパニオン診断薬になりうる可能性が示せた。次年度以降も引き続き、臨床検体の収集を行い、n数を増やして解析を行う予定である。4)に関しては、スクリーニング系の開発に着手しており、次年度以降スクリーニングを行う予定である。 以上より、本年度は、十分な研究の進捗が見られたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
SCD1阻害薬が、CD8+ T cellおよびDCに直接作用し、それらの抗腫瘍活性を増強することを明らかとしたが、そのメカニズムは未解明のままである。3年目は、代表者の予備実験より鍵因子であると推察されたこの分子Xを中心に、メカニズムの解明を行う予定である。 バイオマーカーに関しては、引き続き臨床サンプルを収集し、複数種のがん種を対象に、更に多数症例での検討を行う。さらに、開発したバイオマーカーが、どのような症例(癌種・組織型等)に対して有効であるのかなどを精査する予定である。 臨床応用可能な新たなSCD1阻害薬の開発においては、ハイスループットスクリーニング系を構築しており、それを用いて候補薬剤を選定していく。選定が済み次第、まずは担癌マウスモデルを用いて、安全性の検証を行う。
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