研究課題/領域番号 |
21K15612
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分51020:認知脳科学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
近藤 将史 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 助教 (80879776)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | 神経科学 / 行動神経科学 / 二光子カルシウムイメージング / 費用対効果 / 意思決定 / カルシウムイメージング |
研究開始時の研究の概要 |
動物は行動に伴うコストを最小化しつつ,得られる報酬を最大化するよう振る舞う.この意思決定に際して,環境からの感覚刺激や行動に伴うコスト,行動の結果得られる予測報酬といった複数の異なる情報が単一神経細胞レベルでどのように統合されているかはよくわかっていない. 本研究では『他領域からの入力である軸索活動と,樹状突起での局所活動および他領域への出力を反映する細胞活動を同時に観察可能な要素技術の開発』と『行動コストと得られる報酬のバランス(コストパフォー マンス)にもとづく意思決定課題の構築』を通じて,合理的意思決定を行うマウス前頭皮質の単一細胞における入出力の変換過程を明らかにすることを目指す.
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研究実績の概要 |
動物は行動に伴うコストを最小化しつつ,得られる報酬を最大化するよう振る舞う.この意思決定に際して,環境からの感覚刺激や行動に伴うコスト,行動の結果得られる予測報酬といった複数の異なる情報が単一神経細胞レベルでどのように統合されているかはよくわかっていない. 本研究では『行動コストと得られる報酬のバランス(コストパフォーマンス)にもとづく意思決定課題の構築』と『他領域からの入力と神経細胞の局所活動および他領域への出力を反映する細胞活動を同時に観察可能な要素技術の開発』を通じて,合理的意思決定を行うマウス前頭皮質の単一細胞における入出力の変換過程を明らかにすることを目指す. 2023年度は行動課題中の浅層・深層の高速同時イメージングデータの取得を予定していたが,これに必要な高速観察深度変更装置の不具合・故障により満足なデータ取得が行えなかった(後述).本来は今年度で研究期間は終了であったが,来年度まで研究期間を延長のうえ装置の修理を行い,データ取得を目指す. また観察対象となる皮質5層錐体細胞について,視床下核投射ニューロンを選択的に標識する手法の検討を行った.この細胞は皮質1層に豊富に枝分かれした樹状突起を持っており,細胞体活動と独立した樹状突起活動を示す細胞のひとつである可能性が示唆された. 神経活動計測の遅延により,それに代えてGo/No-go課題を用いた前頭皮質各領域の運動実行および停止に対する寄与を検討した.高次運動野を含む前頭皮質の一部の活動を抑制したところ,本来行動を抑制しなければならない場面でマウスはその行動を抑制できなくなる傾向が見られた.行動コストにもとづく意思決定課題においても,当該皮質領域が行動しないことを積極的に実行するために関与している可能性を考慮し,今後は当該課題でも同様の実験を行いたい.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
高速観察深度変更装置の不調により,神経活動計測に遅れが生じている. 行動課題についてはDCモーターによる走行方向と逆方向への一定トルク付与によって,行動コストの大小による意思決定を行わせる課題について検討を行った.これによって行動コストを走行距離によって設定していたときに比べて,マウスの行動には行動選択のバイアスが見られた.しかし条件検討が十分ではないためか,依然として個体によってはコスト度外視傾向が見られたため,引き続き行動課題の検討を続ける. 先に述べたとおり神経活動計測が遅延しているため,それに代えてGo/No-go課題を用いた前頭皮質各領域の運動実行および停止に対する寄与を検討した.皮質抑制性ニューロンにChR2を発現する遺伝子改変マウスとレーザースキャン光学系を併用した多点同時活動抑制実験を行った.その結果,高次運動野を含む前頭皮質の一部の活動を抑制すると,本来行動を抑制しなければならない場面でマウスは行動を抑制できなくなる傾向が見られた.これは高次運動皮質が運動実行だけでなくその抑制にも関わっていることを示唆しており,行動コストと予想報酬から行動しないことを積極的に実行するために必要な機能である可能性がある. また観察対象となる皮質5層錐体細胞について,視床下核投射ニューロンに着目した.これらの細胞の形態を観察したところ,皮質1層まで伸びる豊富な樹状突起分布を持っていた.投射先である視床下核は運動実行・制御を担う大脳基底核ループのうちハイパー直接路を構成しており,行動のスイッチングや停止に関与していると考えられている.この細胞集団が行動コストと報酬のバランスにもとづく意思決定場面においてなんらかの働きを担っていることが考えられるため,今後は特にこの細胞集団について着目して実験を行いたい.
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は高速観察深度変更装置を再度使用可能にし,行動課題中の高次運動野5層錐体細胞の樹状突起先端および細胞体活動を同時計測したデータセットを十分な数取得することを目指す.当初予定していたホイールを用いた行動コストによる意思決定課題は個体によってはコストによる行動バイアスが見られないことがあるため,条件検討を引き続き行うとともに先に述べたGo/No-go課題の実施も視野にいれつつ,行動課題中の神経活動計測を行う. また今年度の予備検討によって,運動皮質5層に存在する視床下核投射ニューロンを安定して識別することが可能となった.これらの細胞の形態は皮質1層に豊富な樹状突起を持つものあった.大脳皮質から視床下核への投射経路は,運動実行・制御を担うと考えられている大脳基底核ループの構成要素のうち,ハイパー直接路にあたる.この神経回路は行動のスイッチングや停止に関与していると考えられており,行動コスト-報酬のバランスにもとづく意思決定場面においてなんらかの働きを担っている可能性がある.そのため今後は観察対象としてこの細胞集団に注目して計測を行う予定である.
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