研究課題/領域番号 |
21K15619
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分51030:病態神経科学関連
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
新田 陽平 新潟大学, 脳研究所, 特任助教 (30800429)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 伝播 / αシヌクレイン / パーキンソン病 / ショウジョウバエ / モデル生物 / シナプス / 神経変性 |
研究開始時の研究の概要 |
近年、神経変性疾患の進行の分子病態の1つとして原因タンパク質の凝集が特定の神経細胞から別の細胞へと伝播することが挙げられている。本研究では、病態伝播に決定的な分子の同定及び伝播の分子機序を解明することを目的とする。これまでに申請者は、ショウジョウバエを用いて独自の伝播モデルを樹立しており、このモデルではパーキンソン病の原因タンパクであるαシヌクレイン凝集病態の細胞間伝達を非侵襲的に再現出来た。現在、このモデルを手がかりとして、in vivo 実験モデルおよびヒト組織におけるαシヌクレイン伝播の分子機構の解明、特に細胞外放出機構に焦点をあてて挑む。
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研究実績の概要 |
パーキンソン病の疾患の進行の分子病態の一つとして、凝集性の疾患タンパクがプリオンのように特定の神経細胞から別の細胞へと伝播する可能性が挙げられている。近年の研究によって、パーキンソン病の原因遺伝子の1つであるαシヌクレイン(αSyn)の凝集が始まる場所の一つとして腸管神経の可能性が強く示唆されている。一方で、「どの様な分子機構で腸管神経のαSynを病的状態にするのか」、そして病的状態になったαSynが「どの様な分子機構で中枢神経系へと伝播するのか」については明快な解は得られていない。本研究ではこれまでの実験で摂食させたαSynの線維化物(PFF)が未知の機構を用いてモデルショウジョウバエの腸管神経に局在するαSynをリン酸化させ、病的状態に移行させていることを明らかにした。 本モデルではオートファジーの開始に必須な遺伝子であるAtg1をノックダウンすることによってオートファジーを抑制し、αSynを分解されにくい状態にしているが、オートファジーを抑制していない状態でも腸管神経のαSynのリン酸化が促進されるか不明であった。そこで、Atg1をノックダウンしていない系統にPFFを摂食させたところ、コントロールと比べて有意差は検出されなかった。この結果は、PFFによる腸管神経のαSynのリン酸化にオートファジーが関与している可能性を強く示唆しており、オートファジーの阻害が病態を悪化させるというヒト培養細胞を用いた研究と一致している。 一方で、PFFの摂食によって引き起こされた腸管神経のαSynのリン酸化が中枢神経系まで伝播するか確認したところ、4週間以上飼育しても中枢神経系で発現させたαSynの有意なリン酸化の増加は観察されなかった。この結果は、ショウジョウバエではαSynのリン酸化が伝播されない可能性、もしくは4週間という期間が伝播には短すぎた可能性が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では伝播に焦点をあてているため、腸管神経から中枢神経系へのαSynのリン酸化状態の伝播を指標としてRNAiスクリーニングを試みるつもりであった。しかし、今年度の研究では腸管神経から中枢神経系へのリン酸化状態の伝播が観察されなかった。その原因として、上記2種の可能性が考えられる。しかし、オートファジーに関与する遺伝子であるAtg1が腸管神経のαSynのリン酸化に重要であるという従来の報告と一致する知見を得ることができた点は非常に大きい。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の実験では4週間飼育して中枢神経系への伝播が確認されなかったので低温飼育することによって、より長期間モデルショウジョウバエを飼育してリン酸化状態の伝播が観察されるか確認を行う。また、中枢神経と腸管神経を接続する介在神経についても伝播の検討を行う。これらの実験によって、腸管神経から中枢神経系もしくは介在神経へとリン酸化状態の伝播が確認された場合は、腸管神経及び介在神経特異的に膜タンパク特異的なRNAiスクリーニングを行いリン酸化αSynが腸管神経から放出される機構、リン酸化αSynが接続している神経に取り込まれる機構の解明を行う。 並行して、摂食させるPFFの種類によって腸管神経のαSynのリン酸化度合いに変化が生じるのか検証を行う。また、受け手側である腸管神経のαSynも野生型やA53T以外のバリアントによってリン酸化状態に変化が生じるのか、様々なαSynバリアントを発現させて検証を行う。これらの実験によってαSynを病的状態にさせる条件を見出す。 更に本モデルショウジョウバエ系統を用いることによって、腸に輸送されたPFFが腸管神経へと取り込まれる機構、取り込まれたPFFが腸管神経で発現しているαSynをリン酸化する機構、に関与する因子を同定する。腸管神経へと取りこむ機構については、まずはエンドサイトーシスの抑制を試みる。次に、エンドソームの膜に局在していることが報告されている75遺伝子を対象にした腸管神経特異的なRNAiスクリーニングを行う。そして、エンドサイトーシスによって腸管神経細胞内に取り込まれたPFFが、エンドソームの中から細胞質内への侵入するために必要な遺伝子を同定する。また、キナーゼ特異的なRNAiスクリーニングを行いPFFが腸管神経のαSynをリン酸化する過程に関与するキナーゼを同定する。
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