研究課題/領域番号 |
21K15660
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分52010:内科学一般関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
七尾 道子 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (40876091)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2021年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | エストロゲン / 血管炎症 / 慢性炎症 / 腹部大動脈瘤 / サルコペニア / フレイル / 炎症 |
研究開始時の研究の概要 |
女性では、更年期以降のエストロゲン減少によってサルコペニアや心血管病、骨粗鬆症といったフレイル関連疾患の発症リスクが高まることが報告されており、それが女性の不健康期間の長さの原因と考えられるが、エストロゲン減少がフレイル関連疾患を引き起こす機序、フレイル関連臓器におけるエストロゲン受容体の役割については不明な点が多い。 本研究は、エストロゲン減少が引き起こす炎症制御の破綻による慢性炎症が、フレイル関連臓器、特に血管と筋肉の機能低下・老化を引き起こすこと及びその機序を示す。それが示されれば、フレイル予防薬としての選択的エストロゲン受容体調節薬の開発にもつながると期待される。
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研究実績の概要 |
女性では、更年期以降エストロゲン(E2)分泌が低下し、加齢と共に動脈硬化や骨粗鬆症、サルコペニア、認知症の発症リスクが高まることが知られている。これらの病態は心身の機能低下に繋がり、フレイル発生の危険因子となる。本研究は、E2減少が引き起こす炎症制御の破綻による慢性炎症が、フレイル関連臓器、特に血管と筋肉の機能低下・老化を引き起こすこと及びその機序を示すことを目的としている。 2022年度は、まず、2021年度に引き続きメスマウス(C57BL/6JJmsSlc, 20週齢)を用いて、E2欠乏を卵巣摘出により惹起し、E2補充した後に塩化カルシウムの局所塗布とアンジオテンシンⅡの持続投与による炎症性大動脈瘤モデルを用いて血管炎症を誘導した。2021年度に示したIL-1β、IL-6など炎症生サイトカインの関与に加え、IL-6下流炎症経路であるSTAT3の活性もE2欠乏により活性化し、E2補充により抑制された。雌マウスに対するE2の欠乏および補充により、血管炎症と大動脈瘤形成が制御されることが確認でき、E2は大動脈瘤に対して抑制的に働くことが示された。今後、炎症抑制におけるマクロファージや中膜平滑筋細胞の働きなど詳細な作用機序解明が必要である。 次に、メスマウス(C57BL/6JJmsSlc, 10週齢, 20週齢)においてE2欠乏+血管炎症が骨格筋に与える影響について評価を行った。その結果、10週齢では骨格筋重量に明らかな変化は認められなかった。20週齢ではE2欠乏+血管炎症によってヒラメ筋重量が減少し、E2補充により回復した。腓腹筋には明らかな影響を与えなかった。また筋機能を評価したところ、E2欠乏+血管炎症によって握力が低下し、E2補充により回復した。他方で、持久力には変化を与えなかった。今後、局所炎症の有無や血管炎症との関わりなどより詳細な機序解明が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理由 20週齢の野生型メスマウスを用いた検討により、卵巣摘出による内因性女性ホルモンの欠乏によって、腹部大動脈瘤の形成が亢進し、エストロゲンの補充によって、卵巣摘出による腹部大動脈瘤の形成を抑制することが明らかとなった。その機序として、エストロゲンの血管炎症抑制作用が示唆された。また、内因性女性ホルモンの欠乏+血管炎症の誘導によって骨格筋(ヒラメ筋)の重量が減少し、握力も低下した。女性ホルモンの補充によりこれらは改善し、エストロゲンの炎症抑制作用の関わりが示唆された。 これらの結果の一部はすでに国内学会にて報告済みであり、また今後発表を目指して研究を進めており、研究はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者が属する研究室では、血管においてテストステロンが腹部大動脈瘤形成と血管炎症を抑制することを、精巣摘出マウスを用いて既に明らかにしている。一方、腹部大動脈瘤に対するE2の作用とその機序は不明な点が多く、本研究では卵巣摘出マウスを用いてE2の作用及びその機序を検討することを目的とした。2021年、2022年度の研究によって、エストロゲンが炎症性サイトカインの抑制に関与することで血管炎症を抑制することが示唆された。今後は、炎症抑制の主座がどこにあるのか、マクロファージまたは中膜血管平滑筋細胞の働きについて検討すると共に、特に鍵となる炎症性サイトカインの特定およびエストロゲン受容体の関与についてより詳細な機序解明を目指す。具体的には、マウスの腹腔マクロファージやヒト血管平滑筋細胞を用いてin vitroでエストロゲンの抗炎症作用を検討する。また、ERα/β特異的阻害剤やsiRNAを用いてエストロゲン受容体の関与についても検討する。 筋肉におけるエストロゲンの働きについては卵巣摘出+血管炎症によって筋代謝関連因子(合成系や分解系)やアポトーシス、Sirt1など老化関連因子への影響について検討する。骨格筋内の炎症は、骨格筋における炎症生細胞の局所や形質を病理組織的に検証する。 血管および筋肉においてエストロゲンの炎症抑制作用が示されれば、血管からの筋肉への炎症波及および相関も検討したい。その際には、下肢筋をワイヤーを用いて固定し廃用性サルコペニアを誘導し、卵巣摘出や血管炎症による影響を検討する予定である。
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