研究課題
若手研究
放射線治療を行うにあたりCT画像上で腫瘍の存在範囲を設定する必要があるが、膀胱などの管腔臓器の表層に存在する腫瘍は視覚的に認識することが困難である。本研究では人工知能を用いて腫瘍と正常範囲を識別するセグメンテーション技術に着目し、表在性の腫瘍を自動描出する技術を開発することで放射線治療の精度を向上することを目的とする。
令和5年度は、変形レジストレーション手法による標的設定と従来のヒトの手による標的設定との比較を行うとともに、変形レジストレーション手法のマニュアル整備を行った。また、機械学習に用いる教師データに使用しうる症例の選出作業を開始した。変形レジストレーション手法では、腫瘍切除前のCT画像上で腫瘍が接する膀胱壁の範囲(輪郭)を設定し、腫瘍切除後のCT画像に変形レジストレーションする。その際に腫瘍切除前のCT画像上の輪郭も同様に変形されて腫瘍切除後のCT画像上に反映され、腫瘍の輪郭が描出される。変形レジストレーションのモードや設定パラメータは令和4年度の検討で最適と判断されたものを選択した。ヒトの手による標的設定では、膀胱壁に金属マーカーを留置された症例のCT画像のみを用いて4名の放射線治療医が独立して腫瘍の輪郭を設定した。腫瘍切除後のCT画像で、CT画像上の金属マーカーだけでなく膀胱鏡の所見も加味して作成した腫瘍の輪郭をゴールドスタンダードとし、変形レジストレーション手法によって作成した腫瘍の輪郭およびヒトの手による腫瘍の輪郭とゴールドスタンダードとの一致度をダイス係数で評価した。その結果、ヒトの手による腫瘍の輪郭よりも変形レジストレーション手法で作成した輪郭の方が有意にダイス係数が高く、ゴールドスタンダードに近い輪郭である事が示された。今後は人工知能の教師データを用意するために多数の症例で変形レジストレーション手法による輪郭作成を行う必要があり、手法の変動によって作成される輪郭が変動しないように手法のマニュアル整備を行った。本年度の解析結果は国内関連学会で発表した。
3: やや遅れている
当初の計画では令和5年度に教師データの作成を行う見込みであったが、変形レジストレーション手法による輪郭作成には想定よりも多くのパラメータ設定が必要であり、マニュアル整備に時間を要したため、令和5年度中に教師データを作成することができなかった。しかしマニュアル整備および教師データとして使用しうる症例の選出作業は開始しており、全体の進捗としてはやや遅れていると判断した。
当初は人工知能の学習環境の構築も必要と考えていたが、近年は企業によるAI開発環境の整備がすすみ、令和6年4月には有料サービスとして輪郭自動抽出のAI開発環境が提供される予定となった。提供元の企業とオンラインの面談を行っており、機械学習環境については自前で作成する必要が無くなる予定であるため、この点に関しては当初よりも研究がスムーズに進む見込みである。
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