研究課題/領域番号 |
21K15910
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分52050:胎児医学および小児成育学関連
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
石崎 怜奈 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (70528299)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2023年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | Noonan症候群 / 肥大型心筋症 / 心筋肥大 / PTPN11 |
研究開始時の研究の概要 |
Noonan症候群は、1000-2500人に1人の割合で発症する常染色体優性遺伝病である。80%に心血管疾患を合併し、そのうち約20%に肥大型心筋症の特徴とされる心筋肥大を示す二次性心筋症を認める。二次性心筋症については、疾患関連遺伝子変異のうちRAF1変異で重症例が多く認められる一方、PTPN11変異では頻度は低く、重症度も様々である。本研究では、比較的解析が進んでいるRAF1変異例と比較して未解明な点の多いPTPN11変異例において、二次性心筋症が発症する分子メカニズムを解明することにより、二次性心筋症の重症化の機序を明らかにし、疾患特異的治療の一助にする事を目的とする。
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研究実績の概要 |
Noonan症候群では最初に原因遺伝子として報告されたPTPN11以外にもRAS/MAPK経路に含まれるRAF1などが疾患原因遺伝子として同定されている。Noonan症候群の予後に影響する二次性心筋症では、全周性に心筋肥大が認められるRAF1変異例と比較して、自験例のPTPN11変異例では心筋肥大が心室中隔に限局し比較的軽症であったことから、疾患原因遺伝子の種類や変異の種類によって二次性心筋症の発症の有無や重症度に差が生じる可能性が示唆された。本研究では遺伝子型による臨床表現型の差異の分子的機序を解明することを目的とした。 自験例である二次性心筋症症例のPTPN11遺伝子変異Xと、心筋症発症例がほぼ無い既報のPTPN11遺伝子変異Y、および野生型PTPN11遺伝子を、アデノウィルスベクターを用いてラット新生仔心筋細胞(NRCM)に過剰発現させ、細胞レベルで表現型を比較検討した。X、Y、WTの3種のPTPN11遺伝子を挿入したアデノウイルス発現ベクターの構築は完了した。NRCMを用いた予備実験では、野生型PTPN11を発現させたNRCMでは正常のサルコメア構造を呈するのに対して、2種の変異型PTPN11(X,Y)を発現させたNRCMではともにサルコメア構築の乱れを認めていた。さらに、心筋症型である変異型XのPTPN11を発現させたNRCMを野生型と比較すると、心筋細胞面積が有意に小さくなり、特にXを発現させたNRCMの残存細胞が少なくなるという結果を得た。現在、再現性を得るために十分量のアデノウイルスを増幅し準備をおこなっている。 次年度では二次性心筋症の発症や重症化に関与する具体的な分子機構の解明を目指し、2種の変異型PTPN11(X,Y)、ならびに野生型PTPN11を発現させたNRCMを用いて心筋肥大シグナルの活性を比較検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
実験に使うウィルス量が不足したため、変異型Xを導入したアデノウィルスを再度増幅し精製した。再増幅後のアデノウィルスを用いたところ、変異型Xの過剰発現によって心筋細胞面積が低下するという当初の結果が得られず現在再度検討している。また、保管していた他のウィルスも力価が低下したため、再増幅が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
アデノウィルスは、継代を重ねることによりアデノウィルスベクター内の変異型Xの性質が変化した可能性が考えられ、継代数の少ない保管ウイルスから増幅する。また、他の変異型Y及び野生型のウィルスにおいても継代回数の増加による性質の変化を防ぐ。 その後、野生型および2種の変異型PTPN11(X, Y)を過剰発現させたNRCMを、心筋特異的マーカーであるαアクチニンで共染色し、心筋サルコメア構築を確認し、心筋細胞の表面積、短径横径を計測・比較する。また、核染色を行い、肥大型心筋症で見られる核の拡大やサイズのばらつきを検討する。 ウィルスの感染効率が高く保てる条件を決定し、高効率に感染させたNRCMから蛋白を抽出し、心筋肥大シグナル(SHP-2 、p-MEK、ERK1/2 、p-ERK1/2 、calcineurin, NFAT, p-NFAT等)の発現量をウエスタンブロットにより測定し、複数の心筋シグナル経路(MEK1/2-ERK1/2系、Calcineurin-NFAT系等)の活性を比較する。ウィルスの感染効率が低くウェスタンブロット法での検討が困難であれば、PTPN11遺伝子に付加したHAタグに対する抗体と抗p-ERK1/2抗体を共染色する細胞染色により、細胞レベルでの評価を試みる。Calcineurin-NFAT系については下流分子NFATの核移行を抗NFAT抗体の細胞染色で観察する。さらに、一般に肥大心筋で亢進していることが知られているアポトーシス活性をTUNEL法で評価し比較する。PTPN11変異の二次性心筋症の発症や重症化にMEK1/2-ERK1/2系が関与していれば、ERK1/2を阻害することにより抑制されると考えられる。がん領域でPhase1の治験が始まっているERKの阻害剤であるMK-8353、GDC-0994を投与することにより、NRCMの表現型が改善するかを確認する。
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