研究課題
若手研究
胆管癌の約20%に存在するイソクエン酸デヒドロゲナーゼ(IDH)変異が、胆管癌発生において果たす生物学的役割は不明である。変異型IDH特異的代謝産物である2-ヒドロキシグルタル酸は、野生型IDHの産生するαーケトグルタル酸依存性のヒストン及びDNA脱メチル化酵素を阻害することで、細胞内の代謝のみならずエピゲノムにも影響する。本課題では代謝とエピゲノムの両面から、正常胆管細胞からの発癌メカニズムを明らかにし、IDH変異陽性肝内胆管癌における新規標的分子を同定し、治療に結び付けることを目的とする。
肝内胆管癌(Intrahepatic cholangiocarcinoma: ICC)の約20%に同定されるイソクエン酸デヒドロゲナーゼ(IDH)の変異について、その肝内胆管からの発癌過程において果たす機能的役割に着目して解析を進めている。IDH変異との共変異が報告されている遺伝子異常をマウス肝内胆管オルガノイドへ組み合わせて導入し樹立した変異株(M株)と野生株(W株)では、前者の方がヌードマウス皮下へ移植した際に形成される腫瘍内上皮細胞の異型度が高い。かつその悪性度を高める効果は、変異IDH1阻害剤の投与により解除される。このように、前年度に樹立した in vivo modelの結果の背景にある分子生物学的メカニズムを解明するため、本年度は M株及びW株における in vitro実験を幾つか行った。M株はW株と比較して、少なくとも通常の培養条件ではそれ自体にgrowh 及び survival advantageは見られなかった。一方で、in vivo modelではM株由来の皮下腫瘍はW株のそれと比較して、上皮細胞を裏打ちする線維芽細胞の増生が目立つことに着目し、M株及びW株とマウス線維芽細胞株との共培養実験を行った。その結果、共培養下における増殖促進効果はW株と比較してM株でより高く、かつM株と培養した線維芽細胞株ではW株と培養した際と比較して活性化マーカー(α-SMA)の発現が上昇していた。これら一連の変化は変異IDH1阻害剤の投与によって解除されることから、変異IDH1の導入が、肝内胆管上皮細胞と線維芽細胞の相互作用を促進する可能性が示唆された。
3: やや遅れている
M株とW株で明瞭な差異が見られる実験系の構築にやや時間を要したため。安定した結果を得るための条件検討に必要な期間が想定よりも多くかかった。
今現在得られている表現型(変異IDH1の導入による肝内胆管上皮細胞と線維芽細胞との相互作用促進)に着目し、その背景にある分子メカニズムを解明する。具体的には網羅的遺伝子発現解析を行い、変動遺伝子群の中から下流の標的遺伝子候補を選定する予定である。
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Dig Liver Dis .
巻: 56(2) 号: 2 ページ: 305-311
10.1016/j.dld.2023.08.057