研究課題/領域番号 |
21K16079
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分53020:循環器内科学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大島 司 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (80892471)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2022年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2021年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | 心臓マクロファージ / 心臓線維芽細胞 / 線維化 |
研究開始時の研究の概要 |
心血管疾患、中でも心不全の予後は悪く、5年生存率50%である。心臓が硬くなり、しなやかな拡張が失われ、血液をためることが出来ない病態である拡張不全は有効な治療法がなく、今後増加傾向と予想されている。その機序はまだ明確でないため、機序解明が有効な治療法開発につながると考えた。 心臓を構成している様々な細胞集団のうち、心保護作用が最近報告されている心臓マクロファージと、心臓が硬くなる原因である線維を作成する線維芽細胞の細胞間相互作用に着目し、既にケモカインXが拡張不全発症の重要な因子であることを同定した。今後はin vivoでの影響も評価し、治療薬開発を試みる。
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研究実績の概要 |
心臓マクロファージ由来のケモカインXが心臓線維芽細胞に作用し、常時産生、分解されているコラーゲンを恒常的に分解し心臓のしなやかさを保持している ことを明らかにするために、ケモカインXノックアウトを作成した。 ケモカインXノックアウトマウスは3カ月齢において、野生型マウスと比較し有意に線維化が進行しており、6カ月齢において、心臓収縮能が低下することが判明した。そのため、ケモカインXノックアウトマウスは、心臓における加齢のフェノコピーであると考えられた。更にその機序を解明するため、ケモカインXノックアウトマウスと野生型マウスの心臓mRNAシークエンスを施行した。ケモカインXノックアウトマウスは線維化が進行するにもかかわらず、Col1a1などの主要なコラーゲン遺伝子の発現は増加していなかった。一方でコラーゲンの転写後調節因子であるHSP47の発現が有意に増加していた。HSP47はコラーゲンの合成を促進する蛋白質であり、コラーゲン遺伝子の発現量は変化しないものの、コラーゲンを合成、安定化させるHSP47が増加することが、ケモカインXノックアウトマウスの線維化の機序であると判明した。 また、心収縮能低下の原因に関しても探索した。その結果、血管形成、維持に必須のVEGFAの発現がケモカインXノックアウトマウスにおいて有意に低下しており、更には、心臓の微小血管の減少も確認された。つまり、VEGFAの発現低下に伴う血管新生の阻害、微小血管の減少が心収縮能低下を引き起こし多と考えられた。 心臓マクロファージ特異的なケモカインXノックアウトマウスを作成し、同様な結果が得られることも確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
心血管疾患は世界的な死亡原因の第1位を長年占めている。その中でも心不全による死亡率は高く、5年生存率は50%程度と非常に予後の悪い病態である。血液 を蓄える拡張能が低下した「拡張不全」は現代の高齢化社会において増加傾向であり、更に有効な治療法はなく、予後も悪い。従って、有効な治療法開発が医学 的にも経済的にも非常に重要な分野の1つであり、その中で、新しい治療標的を見出した点は非常に重要であると考えられる。 ケモカインXのノックアウトマウスの解析において、予想されたような線維化や心収縮能低下が起こっており、更にはその機序も明確にしている。また、マクロファージ特異的なケモカインXのノックアウトマウスを作成し、同様の結果を確認している。この点においては予定通りの進行であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
心臓マクロファージの分泌するケモカインXが加齢に伴い低下することが、加齢に伴う心機能低下、線維化の機序であることを突き止めた。ケモカインXノックアウトマウスは実際に、早期に線維化や収縮能低下を来たしており、ケモカインXが心臓の恒常性維持に必須の物質であると考えらえる。 今後は「何故加齢に伴い心臓マクロファージからのケモカインXの分泌が減少するか」という根源的なというに対する答えを探索する。心臓マクロファージは出生後は胎児肝由来とされているものの、その後骨髄由来のマクロファージに置換される。そのため、骨髄の加齢性変化がケモカインXの発現低下につながる可能性が考えられる。加齢に伴う疾患は、一般的に遺伝子配列の変化により生じるというよりは、エピゲノムの変化により生じると考えられているため、ATACシークエンスにより、若年、老年での骨髄細胞のエピゲノム変化を評価し、ケモカインXが減少する理由を追求する。 最終的には新しい治療法を開発することが目的である。ケモカインXの効果を回復させることが加齢に伴う心臓線維化、収縮能低下の治療方法と考えられるため、その効果を得るために、どのようなケモカインXの補充方法が適切か、もしくはレセプターに対するアゴニストが有効かなどを評価する。
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