研究課題
若手研究
ラミン変異患者由来iPS心筋細胞にはDNA損傷が高度に蓄積していることが判明しているため、この細胞を用いて心筋細胞のDNA損傷蓄積を軽減する化合物のスクリーニングを実施する。化合物ライブラリーをiPS由来心筋細胞に投与し、投薬後細胞を固定してγH2AXの陽性箇所を計測することでDNA損傷の程度を定量化する。溶媒コントロールに対してDNA損傷を有意に軽減させる化合物を抽出する。ヒット化合物が得られた場合、心不全モデルマウスに薬剤を投与することで、機能的な改善効果が確認されるか検証する。
本年度は、昨年度から引き続いてLMNA変異拡張型心筋症(DCM)患者から樹立したiPS細胞由来心筋細胞(iPSCM)を用いてDNA損傷マーカーγH2AXの評価を指標とした化合物スクリーニングの実験を継続し、LMNA変異を有する心筋細胞においてDNA損傷の蓄積を軽減する化合物の探索、およびその生体内における効果検証を行った。まず、昨年度中に実施したスクリーニングの結果同定されたビタミンD2(VD2)が、in vivoのモデルにおいてもDNA損傷の軽減や心機能改善に有効であるかを検討した。当初解析対象としていた、重症なDCMを来すLMNA変異(p.Q353R変異)と相同な変異をノックインしたマウスを作成したところ胎生致死であったため、別のDCMをことが知られているナンセンス変異をノックインしたマウス(p.R225X変異)を作成し解析を行った。このマウスは出生時には大きな異常は認めないが、生後3か月程度で心筋細胞におけるDNA損傷の蓄積と、心機能の低下、心拡大が確認された。このマウスに、生後2か月頃からvitamin Dアナログを8週にわたり腹腔内投与したところ、心筋細胞におけるDNA損傷マーカーの蓄積が抑制され、心機能の低下も抑制されることが判明し、心保護的な効果が確認された。さらに、構築したスクリーニング系に別の化合物ライブラリーをアプライした。その結果、複数の化合物がヒットし、再現性を検討した結果、CPI1205(ヒストンメチル化酵素阻害剤), WM8104(ヒストンアセチル化酵素阻害剤)等が有用な可能性が示唆された。来年度はスクリーニングを継続するとともに、これらの化合物の薬効解析等を実施する。
2: おおむね順調に進展している
昨年度同定した化合物のin vivoでの機能解析を進め、疾患モデルマウスでも効果があることが示され、臨床的なdrug repositioningのための試験の根拠となるデータを取得した。また、さらに化合物スクリーニングを進め、新たなヒット化合物を2つ新たに同定することができた。以上から本研究計画はある程度順調に進捗していると考える。
すでに同定し、in vivoの機能検証を終えたvitamin D2については、臨床的な応用の可能性を探索するため、マウスにおける体内濃度の検証や他のビタミンD受容体アナログの使用を検討する。新たに同定された2つの化合物については、投薬後の遺伝子発現解析によってそのDNA損傷の蓄積軽減の機序の推定を行う。また、同様に作成したLmna変異マウスに投与することによって、in vivoでの薬効評価を試みる。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 備考 (2件)
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