研究課題/領域番号 |
21K16124
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分53030:呼吸器内科学関連
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
梶本 雄介 日本医科大学, 医学部, 助教 (10899082)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 低真空走査電子顕微鏡 / 通常型間質性肺炎 / 非特異性間質性肺炎 / 特発性器質化肺炎 / 腔内線維化 / 肺虚血 / 多重蛍光染色 / 酢酸ウラン染色 / PPFE |
研究開始時の研究の概要 |
炎症性びまん性肺病変の炎症細胞浸潤から連続する線維化、嚢胞化をきたし改築される肺病変の、特に早期過程のLV-SEMを主体とした詳細な微細肺胞構造の解析を行い付随するリモデリングについての予後予測に繋がる病態の解明を微細肺胞構造変化の把握を通じて試みる。炎症性、線維性の肺病変の標本に対し、低真空走査型電子顕微鏡のTIブルーやPAM染色像を用いて早期の超微形態学的な変化を、免疫染色を含めた光学顕微鏡の組織像を照らし合わせる事でより詳細に把握する。これらの評価をまずはモデルマウスで行った後に、ヒトの病理検体でも行う。
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研究実績の概要 |
LV-SEMを用いた肺構造の評価基準は確立されておらず、ヒト正常肺組織や器質化肺炎などの早期病変を主な対象としてPAM染色標本およびPt-blue染色標本を作製した。PAM染色では肺胞壁における肺胞上皮-血管の間の微細構造は、当施設の腎正常組織の糸球体係蹄の上皮-血管間の基底膜や間質所見と類似性が見られた。Pt-blue染色では、肺胞上皮、血管内皮、平滑筋などを超微形態学的にある程度識別可能であったが、抗体沈着や抗原抗体反応を来す疾患が多い腎や血管新生を識別しやすい角膜と異なり、気腔構造のある肺は染色対象がそれぞれECM、細胞に限ったPAM染色やPt-blue染色での詳細な評価は困難と考えられた。従って細胞と間質を含めて立体構造を把握しやすいように、厚さ10μmの切片を用いて酢酸ウラン染色や免疫染色を追加し検討した。早期の器質化肺炎では、LV-SEMにて肺胞上皮に陽性となるTTF-1染色を追加した事で、肺胞構造や腔内線維化の微細な輪郭を捉えての識別が比較的容易になった。 一方、肺胞壁の変化も把握するため肺腫瘍に伴う梗塞を新たに対象症例とし解析を開始している。梗塞周囲の肺胞壁内でのみ出血し壁内の筋線維芽細胞増生など多様な早期虚血性変化を呈しLV-SEM解析が超微形態学的評価として有用だった。更に、多様な組織変化を判別するため同一のパラフィン検体よりOpal蛍光多重免疫染色および自家蛍光も削減可能なMantraによる画像解析も開始している。CD34, type IV collagen, α-SMA、keratin染色などを併用したLV-SEMおよび多重蛍光染色では、早期虚血性変化を来した肺胞壁において、光顕でうっ血と判別困難であった肺胞壁内に限局した出血像、光顕で確認困難であった肺胞壁の血管基底膜と上皮基底膜の離開などの像が明瞭に認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初、低真空走査電子顕微鏡(LV-SEM)の対象に選定している検体は主に過ヨウ素酸メセナミン銀(PAM)染色および白金ブルー(Pt-blue)染色にて評価を行った。しかし腎臓と違いair spaceが主体の肺標本において、ECMを主な対象とするPAM染色や細胞を主な対象とするPt-blue染色のみでは十分な評価が難しいと考えられた。特にPt-blue染色において、傷害によって剥離した上皮の性状の明瞭な識別は比較的困難であった。よって細胞と間質ともに対象となる厚さ10μmの切片での酢酸ウラン染色や種々の免疫染色を追加し、立体構造のより包括的かつ詳細な判別が必要と考えられた。 LV-SEMにおける肺の正常基準が確立されていない事を考慮し、疾患群の検体は比較的早期の病変で正常領域の残存確認が容易なものが疾患群の検体として望ましいと思われた。その一つとして選定された早期の器質化肺炎は病変と周囲の肺組織との境界が把握しやすく、正常な肺組織検体と併用して評価基準の確立に有用と考えられた。また腔内だけでなく肺胞壁の変化をより詳細に検索するための症例も必要と思われたので、肺梗塞に付随する壁内の出血や筋線維芽細胞増生などがみられる早期虚血性病変を解析中である(J. Japan. Resp. Soc. 2009;47(10))(Histopathology. 2016;69(4))。 特にLV-SEMの解析をよりブラッシュアップする為、多様な肺病変の微細組織像の詳細な判別のために、同一のパラフィン切片で高感度な多重蛍光染色が可能なOpal染色とMantraによる解析も追加しており、その解析方法の確立などで時間を要している。
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今後の研究の推進方策 |
LV-SEMにおける評価基準が確立しておらず、正常、疾患群ともにヒトの肺組織から標本を作成、評価する。疾患群としては間質細胞や上皮などの変化が対称群との比較が容易な早期病変を優先的に選択する方針に変更はない。 単一切片で高感度な多重蛍光染色が可能なOpal蛍光多重免疫染色およびMantraによる画像解析は、現時点では早期肺虚血性病変の一部に施行しているのみであるが、今後は、肺胞壁の上皮、血管内皮、間質細胞など微小環境の判別のため、器質化肺炎や肉芽腫性疾患などの他病変のパラフィン検体にも併用していく予定である。 特に、びまん性肺病変の再生上皮や線維芽細胞などtransitional state cells:TSCsと呼ばれ、基底細胞分化(keratin8)、1型肺胞上皮分化(Hopx)、UIP(MMP7)、SFRP1、CTHRC1 、FAPなどのマーカーが多様に発現し病態・予後関連因子として注目されている(Shen M, 2022)。これらのマーカーを使ってTSCsと周囲の早期線維化巣(間質細胞)や炎症免疫細胞(Mø、リンパ球、CD4, CD8、PD-L1)、その他、老化(p53, p16)関連因子との相互作用の理解を深める。
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