研究課題/領域番号 |
21K16133
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分53030:呼吸器内科学関連
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
佐藤 正道 山形大学, 医学部, 助教 (90613050)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 慢性閉塞性肺疾患 / 鉄代謝 / ヘム蛋白合成 / アミノレブリン酸合成酵素 / ALAS-1 / COPD |
研究開始時の研究の概要 |
我々は今までのコホート研究、動物実験の結果から『血清鉄の低値はヘム蛋白合成低下が喫煙曝露への炎症応答を増悪させ、COPDの増悪因子となる』と仮説を立てた。本研究では、ヘム蛋白合成経路のアミノレブリン酸合成酵素(Aminolevulinic acid synthase; ALAS)遺伝子改変マウスを用いて、この仮説を検討する。将来的には疾患進行抑制の観点から新たな治療法を確立することを目標とする。
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研究実績の概要 |
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、タバコ煙などの有害物質を長期間吸入曝露することにより、肺局所だけでなく全身性の炎症が引き起こされる疾患とされている。しかし喫煙者の全員がCOPDを発症するわけではなく、何らかの喫煙感受性因子が存在していることが示唆されている。当施設で我々が行ってきた疫学研究では血清鉄の低値が喫煙者の経年的な呼吸機能低下に関与することが明らかとなっている。さらに動物実験により血清鉄の低下が喫煙による肺局所の炎症を誘導し、肺気腫を増悪させることを示した。鉄欠乏状態では、酸化ストレス応答に関与するヘム蛋白の合成が低下することから「細胞内鉄欠乏によるヘム蛋白合成低下が喫煙曝露への炎症応答を増悪させる」と仮説を立てた。本研究ではヘム蛋白低下状態における肺細胞への喫煙曝露の影響を検証し、ヘム代謝に着目した新規治療法への可能性を検討することを目的とした。 前年までの研究でヘム合成蛋白(Aminolevulinic acid synthase(ALAS)-1)ヘテロノックアウトマウス(BDF1マウス)に対して喫煙曝露による肺気腫を誘導したが、対照群と比較して差異を認めなかった。さらに肺胞上皮細胞株をALAS-1阻害薬で前処置し、タバコ抽出液によるアポトーシスを誘導したが、ALAS-1の前処置によるアポトーシスの増強を認めなかった。 当年度はALAS-1の発現の相違によって、貧血や鉄欠乏状態にはなっていないが、細胞内のヘム代謝に変動を来しているかを検証した。細胞内ヘム濃度は細胞内ミトコンドリア膜電位の変動を観察することで間接的に測定した。培養細胞をALAS-1阻害薬により処理した後にJC-1染色を行ったところ、ミトコンドリア膜電位が上昇し、ミトコンドリア内のヘム合成阻害が起こっていることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々はこれまでの研究で、鉄欠乏状態が肺内の炎症を増強し、COPDの組織学的病態を悪化させることを示した。しかし、血清鉄の低下は低酸素の影響を無視することができないため、肺内の炎症が純粋に鉄代謝によるものかを検証することが困難と考えられた。そこで我々はヘムタンパク質を構成する鉄に着目した。体内で鉄は、主にヘモグロビン鉄として利用されているが、他にヘムタンパク質の補欠分子族として生体に重要な役割を果たしている。鉄欠乏状態はヘモグロビンではなく、他のヘムタンパク質の合成低下を引き起こして、COPDを増悪させているという仮説を検証することとした。 我々はヘム蛋白合成経路のアミノレブリン酸合成酵素(Aminolevulinic acid synthase; ALAS)代謝に着目した。ALAS-1の代謝は赤血球中のヘム蛋白に影響を及ぼさないため、ヘモグロビンの生合成に影響せずに、他のヘム蛋白の合成低下を起こすことが期待された。ALAS-1遺伝子改変マウスを用いて肺気腫形成を誘導する実験を行ったが、対照群と比較して肺気腫の形成に差を認めなかった。また培養細胞系でALAS-1の合成阻害を行ったが喫煙刺激による細胞のアポトーシスに差を認めなかった。 そこでALAS-1の発現の相違によって、貧血や鉄欠乏状態にはなっていないが、細胞内のヘム代謝に変動を来しているかを検証した。培養細胞系を用いて、細胞内ヘム濃度の変化により細胞内ミトコンドリア膜電位の変動が生じることで細胞内ヘム蛋白の変動を間接的に証明した。肺胞上皮細胞株、気道上皮細胞株へALAS-1阻害薬を投与し、JC-1染色を行うことでミトコンドリア膜電位の変化を検証した。その結果ミトコンドリア膜電位がコントロール群に比べて上昇しており、ミトコンドリア内のヘム合成阻害が誘導されていることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
ALAS-1の発現の相違によって、貧血や鉄欠乏状態にはなっていないが、細胞内のヘム代謝に変化を起こしていることを証明した。しかしALAS-1の発現変化により喫煙曝露による培養細胞のアポトーシスは変化を認めず、動物への喫煙曝露による肺気腫の変化は認めなかった。 今後はマウスに対し強制的にヘム蛋白を発現させる実験を行い、生体にどのような変化が起こるかを検討する。具体的にはアミノレブリンサン(ヘムタンパクの前駆物質)をマウスに投与し、肺組織中のHeme Oxygenase 1やミトコンドリア分裂を促進するGTP 結合タンパク質 dynamin-related protein 1 (Drp1)を測定する実験を計画している。最終的にヘム蛋白の発現変化によって、肺組織を中心とした生体にどのような影響が出てくるかを検証する計画である。
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