研究課題
若手研究
慢性腎臓病(CKD)患者の認知機能障害の有病率は一般住民と比較して高いにも関わらず、その病態は十分に解明されていない。これまで脳内局所酸素飽和度(rSO2)の検討を通じて、CKD患者の脳内rSO2が低値であり、腎機能低下とともに低下し、認知機能と関連する可能性について明らかにしたが、CKDがなぜ脳内低酸素を引き起こすのかについての機序は解明できていない。そこでCKD患者に特有な因子として、尿毒素の蓄積と体内の循環動態への負荷となり得る透析用内シャントの存在に着目した。本研究を通じて、尿毒素の蓄積や透析用内シャントが脳内低酸素に与える影響を検討し、認知機能障害との関わりについて明らかにしたい。
本研究の目的は、脳内酸素代謝が尿毒素物質や透析内用シャントによってどのような影響を受けているのか、さらに脳内局所酸素飽和度(rSO2:regional oxygen saturation)の低下が認知機能にどのような影響を与えているかについて明らかにすることである。令和5年度の研究実績として、透析用内シャントを必要とする保存期慢性腎臓病(CKD)患者における透析用内シャント造設術において、シャント造設前と比較し、造設後には脳内rSO2が低下することを見出した。また、これまでHD患者において、糖尿病透析患者が非糖尿病透析患者と比較し脳内rSO2が低値であることは明らかにされていたが、透析導入前の末期CKD患者における糖尿病の有無による脳内rSO2の違いは明らかになっていなかったが、末期のCKD患者においても糖尿病CKD患者では、非糖尿病CKD患者と比較し、脳内rSO2が低値であることを明らかにした。しかしながら、糖尿病の有無にかかわらず、シャント造設後の低下の割合に差は認めないことも見出した。CKD患者において、透析用内シャントは、生命維持のためのHD治療を実施するにあたり、必須である。しかしながら、非生理的な透析用内シャントを内在することは、シャントを介した無効循環を増加させることから、脳や心臓を含む重要臓器に対しても影響を与えている可能性があるが、上記の研究成果は、仮にシャント血流量が小さい場合であっても、透析用内シャントが存在することで、脳組織が低酸素状態に置かれることを示唆している。このことは生理学的にも、透析用内シャントが脳内酸素動態に与える影響を示した重要な知見である。次年度も、更なる研究の拡大と、透析用内シャントが脳内低酸素に与える影響について、更なる検討を加える予定である。
2: おおむね順調に進展している
順調に症例の登録が進み、結果についての解析を加えることにとどまらず、昨年の論文化に続き、新たな研究結果と新規の知見を得るに至った。上記の研究結果も現在、論文投稿中であること、重要な知見を得ることができたと判断しており、「おおむね順調に進展している」と判断した。さらに、これまで得られた研究結果を元に、研究を継続中であり、次年度さらに研究を進めることで、当初の計画以上の知見が得られ、研究成果を上げられる可能性があると考えている。
今後は、現在行っている症例数の拡大と、これまでの研究が、PTA治療や手術といった短時間で起こり得る脳組織の変化をターゲットとしてきたが、治療や手術における変化が中長期的な観察において、どのような影響を受け、変化するかどうか等について、検討を加える予定である。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 2件)
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