研究課題
若手研究
急性骨髄性白血病(Acute Myeloid Leukemia; AML)は未だに5年生存率約40-50%程度の予後不良の造血器腫瘍である。近年、ヒストン修飾やDNAメチル化などのエピゲノム因子の変異が造血器腫瘍発症のメカニズムの一因となることが明らかになりつつある。本研究では、細胞周期によって変化するヒストン修飾とそれに伴う遺伝子発現の変化を標的とした、新たな急性骨髄性白血病の治療開発を目的とする。
白血病細胞株NOMO-1細胞において、細胞周期によるヒストン修飾の変化をウェスタンブロットにより確認したところ、抑制型ヒストン修飾H2AK119ub1は有糸分裂期において著しく減少した。クロマチン免疫沈降・次世代シーケンサーによる解析でも同様の結果が得られた。興味深いことに、白血病誘導遺伝子HOXA遺伝子群などのmRNAは、細胞分裂直後に発現が一時的に上昇することが定量的PCRによって確認され、白血病細胞が細胞分裂直後にこれらの発現を脱抑制することが白血病細胞としての自己同一性を維持している可能性が示唆された。また、E3ユビキチンリガーゼ複合体であるAPC/Cの活性化蛋白であるCDC20蛋白の過剰発現により、有糸分裂期におけるH2AK119ub1修飾の減少がレスキューされる減少をウェスタンブロットにて観察していたが、興味深いことに、CDC20はHOXA遺伝子群を含む遺伝子座上に局在し、これらの結合部位において確かにH2AK119ub1修飾の減少がレスキューされることをクロマチン免疫沈降・次世代シーケンサーによる解析にて突き止めた。CDC20蛋白は一般的にはがん促進遺伝子として報告されているが、公共データベースでの患者検体による解析により、骨髄性白血病患者ではそのmRNAの発現が低下していた。実際、CDC20の強制発現により、in vitroでは白血病細胞のアポトーシスの亢進を認め、in vivoにおいてもMLL-AF9マウス白血病モデルにて白血病発症が遅延した。以上より、本研究によってAPC/C複合体およびCDC20による有糸分裂期も含めたH2AK119ub1の上昇により、白血病促進遺伝子の抑制が生じ、結果として白血病原性が減弱する可能性が示唆された。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
Cancer Science
巻: 112 号: 10 ページ: 3962-3971
10.1111/cas.15094