研究課題
若手研究
近年、変形性膝関節症(O A)は治療に脂肪組織の破砕物や培養脂肪由来幹細胞が用いられている。本研究は、吸引された自家脂肪組織をLipogemsと呼ばれる脂肪組織破砕キットによる治療機序を明らかにすることである。これまで、作用機序についてはサイトカインやエキソソームによる抗炎症作用が報告されてきた。しかし、細胞が分泌する低分子代謝化合物群のメタボローム解析は前例がない。そこで、Lipogems処理脂肪組織の残余検体を活用して、破砕された脂肪組織から分泌される低分子化合物の網羅的解析を実施し、得られた定量データについて臨床での治療成績との相関を解析し、治療成績に貢献する因子を同定する。
近年、脂肪組織の破砕物や、脂肪組織中に含まれる間葉系幹細胞(脂肪由来幹細胞)が変形性膝関節症の治療に用いられつつある。研究代表者の所属する医療チームは、我が国で初めて変形性膝関節症患者に対し、Lipogemsと呼ばれる脂肪組織破砕キットで処理した脂肪組織を投与する臨床試験を実施し、その安全性や有効性を確認した。海外でも、良好な治療成績を収めていることが多数報告されており、脂肪組織破砕物や脂肪由来幹細胞の投与が変形性膝関節症に対して一定の効果があることが示されている。作用機序としては、組織中に含まれる脂肪由来幹細胞から分泌されるサイトカインやエクソソームによる抗炎症作用が知られているが、低分子代謝化合物(メタボライト)に着目した解析はほとんど報告がない。そこで本研究では、ヒト脂肪由来幹細胞の培養上清を用いたメタボローム解析を実施し、多数のメタボライトを同定した。このうち、高濃度で分泌されていたメタボライトXの作用について検討するため、ヒト単球細胞株THP-1細胞を用いた検討を行った。THP-1細胞をマクロファージへと分化させ、脂肪由来幹細胞の培養上清やメタボライトXを曝露した。その結果、培養上清を曝露したマクロファージでは、炎症性サイトカインをコードする遺伝子の発現が有意に低下していた。また、メタボライトXを曝露した場合でも同様の効果が認められたことから、脂肪由来幹細胞はメタボライトXの分泌を介した抗炎症作用を持つことが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
昨年度実施したメタボローム解析から同定した種々のメタボライトのうち、高濃度で分泌されていたメタボライトXについて、その作用を検討した。変形性膝関節症を発症した関節内では、マクロファージを主体とした炎症反応が起こっていることから、脂肪由来幹細胞から分泌されるメタボライトもマクロファージの機能を抑制することで治療効果を発揮している可能性が考えられた。そこで実際にTHP-1細胞由来のヒトマクロファージにヒト脂肪由来幹細胞の培養上清やメタボライトXを曝露した結果、いずれの場合でも炎症性サイトカインをコードする遺伝子の発現が有意に低下していた。したがって、脂肪由来幹細胞はメタボライトXを分泌することで、強力な免疫抑制作用を発揮している可能性を示すことができた。また、変形性膝関節症モデルマウスの作製も行い、実験系の整備を行っている。
脂肪由来幹細胞がマクロファージにどのような影響を与えるのかをより詳細に検討するため、脂肪由来幹細胞の培養上清を曝露したマクロファージのRNA-seq解析を実施中である。同様に、メタボライトXを曝露した場合でもRNA-seqを実施し、両者の遺伝子発現を比較することで、脂肪由来幹細胞がマクロファージに与える影響の遺伝子レベルでの理解を目指す。さらに、培養上清中にはサイトカインやエクソソームなど様々な物質が含まれており、前述の反応もこれらの影響を見ている可能性を否定できない。そのため、熱処理やフェノール処理を行った培養上清を曝露しても同様の結果が得られるかを検討する。また、マクロファージに発現する、メタボライトXのトランスポーターを薬理学的・遺伝学的に阻害した場合に、培養上清やメタボライトXの効果が抑制されるかを合わせて検討することで、メタボライトXの重要性を明らかにしてく予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件)
Cells.
巻: 12(2) 号: 2 ページ: 330-330
10.3390/cells12020330
Cells
巻: 11 号: 3 ページ: 337-337
10.3390/cells11030337