研究課題/領域番号 |
21K16689
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分56020:整形外科学関連
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
上野 雅也 佐賀大学, 医学部附属病院, 病院助教 (20879811)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2022年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2021年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
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キーワード | 骨再生医療 / 三次元細胞培養 / 骨代謝 / 骨髄炎 |
研究開始時の研究の概要 |
我々は無機系抗菌剤である銀(Ag)、および骨伝導能を増強するハイドロキシアパタイト(HA)を組み合わせ、Ag-HAコーティングを施した抗菌性かつ骨伝導能を併せ持つ人工股関節の臨床応用に成功した。三次元細胞足場材料にマウス骨髄由来間葉系幹細胞とAg-HAの両方を付与し、その後細菌を付加することで、骨髄炎下で抗菌剤を投与した環境を模した in vitroモデルを作製する。細菌感染が抗菌剤(Ag-HA)にて鎮静化されていく過程で、幹細胞と骨代謝の相互連関、Ag-HAによる骨形成能を観察し、これまでに全く無い新規治療法の確立を目指す、独創的な研究内容である。
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研究実績の概要 |
本研究は、細菌環境下での間葉系幹細胞(MSC)の骨形成能力を評価し、感染性骨欠損における最適な細胞治療条件を模索することを目的としています。人工関節感染症は患者と社会にとって大きな負担となるため、適切な治療法の確立が急務です。通常、抗菌剤スペーサーを使用した2段階の人工関節再置換術が行われますが、感染後の骨欠損の修復は依然として課題となっています。MSCを用いた治療法はその可能性を秘めていますが、細菌感染下での治療条件や効果を理解する必要があります。 本研究では、コントロール群、トランスウェル共培養群、即時抗菌剤群、感染後治療群の4つの実験群を設定しました。トランスウェル共培養群では、患者の非感染部位から採取したMSCが感染部位へ移動・移植した状況を模倣し、他の群と比較して細菌とMSCの相互作用を評価しました。実験の結果、コントロール群が最も高い骨形成能を示し、次いでトランスウェル共培養群、即時抗菌剤群の順で石灰化が確認されました。一方、感染後治療群ではアルカリホスファターゼ(ALP)活性や石灰化が見られず、細菌感染による骨形成阻害が顕著でした。 この結果から、短期間の細菌感染でもMSCの骨形成が阻害されることが示唆されます。しかし、適切な抗菌剤の迅速な投与や、細菌とMSCの直接接触を避けることで、感染下でも骨形成が可能であることが明らかになりました。特にトランスウェル共培養群は臨床でのMSC移植を模しており、感染下での幹細胞治療の最適化に役立つデータと考えられます。 本研究の重要性は、細菌感染と骨再生の相互作用を理解することで、将来の臨床応用におけるMSC治療の効果的な戦略を確立するための基礎データを提供する点にあります。これにより、感染性骨欠損を持つ患者への治療法の改善と社会的負担の軽減が期待されます。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度の研究進捗に関して、いまだ予定通りに達成するには至っていません。その理由として、以下の点が挙げられます。 昨年はCOVID-19の影響や研究装置の故障が遅延の主な要因でしたが、今年はその直接的な影響が解消された一方で、依然として昨年度から続く遅れを取り戻すには至っていません。具体的には、修理の遅れで測定が遅延し、予定通りに行えなかったデータ収集と実験の調整が続いていることが大きな理由です。また、昨年の遅延によりスケジュール全体が後ろ倒しになり、その影響で実験結果の評価と次のステップへの移行が滞っているのが現状です。 さらに、研究チームのスケジュール調整が必要な中、限られたリソースでデータの分析や実験計画の立案を進めているため、全体的な進行が遅れてしまいました。加えて、過去の結果と整合性を持たせるための追加実験やデータ分析も不可欠であることから、さらなる時間がかかる見込みです。 このような状況から、1年間の延長申請を再度行いました。これにより、十分な時間を確保しながら実験結果の収集・分析を行い、最終的に計画に基づいた研究成果を達成できるよう努めてまいります。
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今後の研究の推進方策 |
年度の実験データを踏まえ、微量の細菌が常時存在する環境下での三次元培養実験を現在進行中です。この実験の結果に基づき、感染環境におけるMSCの骨形成能力をさらに理解し、効果的な治療条件を見つけ出すことが目標です。データ収集が完了した段階で、学術論文としてまとめ、研究成果を医療分野に広く共有する予定です。
この研究により、感染性骨欠損におけるMSC治療の条件と有効性に関する新たな知見を提供することが期待されます。特に、トランスウェル共培養群と感染後治療群での比較実験結果を活かし、細菌環境下での骨形成の阻害機構とその克服戦略を明らかにする予定です。
また、今後の研究では細菌バイオフィルムの存在がMSC治療に与える影響を詳しく解析し、骨髄炎治療に新たな視点をもたらすための効果的な戦略を提案します。これにより、患者の治療成績の向上と社会的負担の軽減に寄与する研究成果を確立することを目指しています。
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