研究課題/領域番号 |
21K16791
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分56040:産婦人科学関連
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
内田 明子 神戸大学, 医学部附属病院, 助教 (30866364)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2024年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 先天性トキソプラズマ感染症 / TORCH症候群 / トキソプラズマ初感染 / トキソプラズマIgM / トキソプラズマIgGアビディテイィインデックス / スピラマイシン / 免疫逃避 / 母児感染 |
研究開始時の研究の概要 |
妊婦がトキソプラズマ初感染を起こすと新生児に脳内石灰化、水頭症、精神発達遅延、網脈絡膜炎等、重篤な後遺症の原因となる先天性トキソプラズマ症を引き起こす。日本では年間100~200人出生する。 トキソプラズマは様々な宿主の免疫に対応できる特殊な免疫逃避機構を有する。先天性トキソプラズマ症の発症には、様々な異物に対するバリア機能を持つ胎盤におけるペア型レセプターの活性化等が関連している可能性が高い。本研究では、先天性トキソプラズマ症の発症機構およびペア型レセプターとの関連を明らかにし、先天性トキソプラズマ症の発症機構を解明することにより、発症予防法や治療法の開発と確立につげることを目的とする。
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研究実績の概要 |
2022年1月から12月までに分娩した、トキソプラズマIgM陽性で妊娠中の初感染を疑い、当院で検査、フォローした妊婦の結果を提示します。19人中母体血トキソプラズマPCR陽性は0人、トキソプラズマIgGアビディティインデックス(avidity index; AI cut off <35 %)は35%未満が2人でした。近年ではスピラマイシン内服中の妊婦からは先天性トキソプラズマ感染症の児は出生していないことが判明しており、当院ではトキソプラズマIgM陽性の時点でトキソプラズマIgG AIの結果をまたずに、スピラマイシン内服を推奨しており、全員が内服しております。トキソプラズマIgG AIが35%以上と判明し内服を中止したのがうち、11名でした。19名中、産科異常として妊娠糖尿病が1名、妊娠中にコロナ罹患が1名、その他は特に妊娠経過に問題ありませんでした。出生児は女児11人、男児8人でした。うち1名に先天性心疾患がありました。分娩時に臍帯血のトキソプラズマIgMを検査しておりますが19名すべてが陰性でした。新生児トキソプラズマIgGは、母体から移行するため出生時は全員陽性でした。これらの移行したトキソプラズマIgGは1歳児までにすべて陰性化することがわかっており、当院で半年ごとに採血フォロー予定です。また児の聴覚検査、眼底検査、頭部CT検査を施行しておりますが、19名全員が聴覚検査異常なく、眼底検査も異常なく、頭部CT検査でも異常ありませんでした。先天性トキソプラズマ症候群の児では聴覚検査で異常が出現し、眼底検査では網脈絡膜炎が確認される、頭部CTでは脳内石灰化や水頭症が確認できます。また分娩時には胎盤病理に提出しておりますが、トキソプラズマ感染を疑う胎盤はありませんでした。以上のことから2022年の分娩ではトキソプラズマ先天性感染がなかったと判断しております。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
コロナ大流行から3年経過しましたが、臨床現場では、3年前と同様の対応が続いており、その煩雑さから臨床に人手が多数とられてしまいます。コロナ感染や、濃厚接触者が家庭内で多発し、病欠を取得せざるを得ない人も多くいるため、慢性的な人手不足が続いております。感染症法上はコロナは5類となり、インフルエンザと同等の分類となりましたが、コロナ感染者が一定数はいるのが現状で、糖尿病や自己免疫疾患、抗がん剤治療が必要な方などが多くおられる大学病院では、免疫抑制状態や易感染性のある人が多く通院、入院されており、コロナが5類になったとはいえ、対応をかえることは容易なことではありません。 そして、出生数が減少したと話題になっている昨今ですが、当院のような総合周産期センターのある産婦人科では、毎日のようにハイリスク妊娠の母体搬送があり、緊急手術や分娩があります。産婦人科の緊急は、一度に多数が重なることが多く、研究室に在籍する大学院生も呼び寄せて対応にあたることが多くあります。腰を据えて、研究をするのが大変困難な状況が続いております。 コロナ対応が少しでも緩和されるともう少し、人数にも余裕ができるとは考えておりますが、それがいつになるかはわからないままとなっております。またコロナ以降、外来業務にさく時間が増えているのも事実で、今まではご家族への説明や、手術説明を、入院してから時間を作っていたのが、コロナ対応にきりかわってからは病院内への家族の立ち入りが許されなくなってしまい、外来ですべての病状説明やインフォームドコンセントを行う必要があり、さらに時間が足りなくなっております。 コロナ対応による病院の業績悪化も問題視されており、入院および外来も患者数を増やしており、今までより患者数は増えたのに対して、勤務する医師の数は増やされおらず、状況としては以前厳しいままとなっていることが研究が遅れている要因と考えます。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、ペア型レセプター-免疫グロブリン融合蛋白の作成にとりかかることを第一に行う必要があります。そこから、トキソプラズマ表面のリガンドと結合するペア型レセプターの同定にとりかかり、トキソプラズマが発現するペア型レセプターのリガンド分子を同定するところまでを仕上げてしまいたいと考えております。 毎年、当院で検査し分娩した妊婦から産まれた新生児の検査も施行していますが、この4年間、先天性トキソプラズマ感染症の児は出生しておりません。妊娠中のトキソプラズマ感染予防の啓蒙活動が奏功している可能性や、妊娠中のトキソプラズマ初感染自体が起こりにくい状況になっていると考えられます。それにはコロナ大流行による妊娠数の減少、またコロナによる清潔概念の浸透も、これらの結果に大きく寄与している可能性が高いと考えております。今後トキソプラズマ感染の患者を見つけるのは産婦人科だけではかなり困難となってくる可能性も危惧しております。そうなった場合には、神経内科や脳外科など、トキソプラズマ脳炎患者の治療にあたる診療科に依頼して、トキソプラズマ感染組織を入手する必要があると考えております。そのためには、他科と連携し集約的な治療を行える当院はこの研究に向いていると考えております。また当院には感染症に特化した感染症内科も診療科として独立して存在し、トキソプラズマ感染症を集めるのに向いている施設であるといえるのではないでしょうか。 これらのことから、まずは、なによりも、トキソプラズが発現しているペア型レセプターのリガンド分子を同定することが今回の研究遂行の最重要ポイントと考えております。そこが遂行できれば、実際に感染組織を入手するのはその他の施設よりは、困難度は低いと考えております。
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