研究課題/領域番号 |
21K17096
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分57060:外科系歯学関連
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
平野 大輔 岩手医科大学, 歯学部, 助教 (10878359)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 口腔扁平上皮癌 / 上皮間葉転換 / Hippo経路 / 転写因子 / 浸潤・転移 / がんの浸潤・転移 / 口腔扁平上皮癌細胞 / 細胞内シグナル伝達 |
研究開始時の研究の概要 |
1) 口腔扁平上皮癌(OSCC)細胞であるHSC-4細胞において、上皮間葉転換(EMT)誘導刺激をした際にSlugならびにSox9に結合し、これらの転写因子の活性化に働く分子を網羅的にピックアップする。 2) EMT誘導性転写因子SlugやSox9の活性化に働くモデル分子をin vitroレベルで絞り込む。 3) EMT誘導性転写因子SlugやSox9の活性化に働くモデル分子のin vivoレベルでの特定を行う。 4) これまでに特定されたOSCCのEMTを誘導するSox9 やSlug 結合性活性化分子の病理組織検体内での細胞内動態(発現強度や細胞内局在)と予後の病状との相関性を明確化する。
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研究実績の概要 |
我々はこれまでに、口腔扁平上皮癌細胞株HSC-4細胞において、TGF-β1 (Trans forming growth factor-β1) が上皮間葉転換 (EMT) を誘導することを明らかにしてきた。すなわちTGF-β1の刺激により転写因子Slugの発現が上昇し、1)N-cadherinなどの間葉系由来タンパク質の発現上昇、2)HSC-4細胞の遊走活性が促進されること、及び3)Slug/Wnt-5b/MMP-10のシグナル経路を介して、HSC-4細胞の浸潤能の上昇が見出された。一方で、転写因子Sox9は、N-cadherinの発現上昇に関与することを見出しており、SlugとSox9はEMTに関連する重要な転写因子であることが示された。一方、Slugの機能発現には、Hippo経路が関与することを見出している。従って、HSC-4細胞におけるEMTの進行において、種々の経路や因子と、どの様に関連しているのかを総合的に理解をする必要がある。そこで、現在我々は、HSC-4細胞をEMT誘導刺激することでSlugならびにSox9に結合し、転写因子の活性化に働く因子の検索を行なった。すなわち細胞接着因子、接着斑関連因子、Wnt経路、TGF-β経路、及びJAK stat経路のmRNAプライマーアレイを用いてmRANレベルでの遺伝子発現を調査した。この結果、1) 現在のところ変動する候補は15個が見出されている。2)癌細胞では活性化され、EMTを誘導すると考えられている古典的Wnt/β-catenin経路のいくつかの遺伝子が、48時間のTGF-β処理HSC-4細胞では、むしろ抑制されている傾向が見られることが明らかとなった。このWnt/β-catenin経路は、Hippo経路との関連もあるため、今後はTGF-β処理HSC-4細胞で抑制される遺伝子とその機能を明らかにし、EMTの抑制に働く転写因子を同定することで、HSC-4細胞のHippo経路を介したSox9シグナル伝達機構の解明につながると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究の目的は、OSCC細胞において、TGF-β関連ならびにHippo関連シグナル伝達分子がどのような分子メカニズムでSlugやSox9を活性化してEMTを誘導するのかについて、SlugやSox9結合性のEMTシグナル活性化分子を網羅的に明らかとすることで解明することにある。このためHSC-4 細胞においてEMT誘導刺激をした際にSlugならびにSox9に結合し、これらの転写因子の活性化に働く分子を網羅的に同定することが必要である。そのために、現在mRNAプライマーアレイによる解析を行なっているが、この方法では、経路既知の遺伝子のみであるため、全遺伝子を網羅的には解析できていない。また、変動する候補は15個が見出されている。一方、より直接的に因子間の相互作用に対する解析が可能な免疫沈降による解析は、遅れているのが現状である。これに対して、阻害剤を用いた解析では、1)EMT関連転写因子であるSnailがSox9の発現増大に関与する可能性が見出されたこと、2)Smadによる遺伝子発現がHippo経路により制御されていることが示されたことが新規に得られていた。しかし、新規の解析では新たな発見は未だない状況である。 以上の結果から、進捗状況は遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
1) SlugあるいはSox9に結合し、これらの転写因子の活性化に働く分子の同定:a) SlugあるいはSox9に対する特異的抗体に対する免疫沈降解析キットを用いて、Slug結合性タンパク質ならびにSox9結合性タンパク質を回収する。回収したタンパク質について、既知のタンパク質については、ウェスタンブロット法により同定する。既知でないタンパク質については、LC-MS/MSにより同定を行う。b)各種のPrimer Arrayを用いて、EMT誘導により発現量の変動する遺伝子を見出す。a) とb)から見出された因子に対するsiRNAを用いて、その因子の機能解析を行い、EMT誘導に関与するのかを調査する。 2) 転写因子SnailのEMT誘導への関与:a) TGF-β及びSmadシグナル経路の阻害剤を用いて、verteporfinと同様な阻害実験を行い、Snail, Sox9及びN-cadherinの発現を調べて、再現性があるかを確認する。b) SnailのsiRNAを用いて、Sox9及びN-cadherinの発現が抑制されるかを調べる。c) YAP及びTAZのsiRNAを用いて、Snail及びSox9の発現及び細胞局在を調べて、Hippo経路との関連を調べる。以上の研究から、SnailとSox9の機能と局在を明らかにする。 3) Slug及びSox9発現の病理組織学的な検討:Slug及びSox9の発現と口腔悪性疾患のステージ間に関連があるかを調べる。病理組織を用いて、Slug及びSox9の組織免疫染色を行い、臨床的悪性度やEMT進行度と相関してその発現強度や細胞内動態が変化するかを調べる。これらの結果より、口腔癌患者の予後予測や病態診断のための指標として使用できるのかを判断する。特に今後の推進方策としては、3)に重点を置いて研究を推進する予定である。
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