研究実績の概要 |
肺癌手術は, 全身麻酔や胸壁に対する手術侵襲を契機に, 術後に有意な吸気筋力の機能障害が生じやすい。呼吸筋力の低下は, 術後の運動耐容能にも影響を及ぼす可能性があり, 肺癌術後患者の術後運動耐容能の早期改善には, 呼吸筋障害に焦点をあてた介入の有用性が示唆される。 そこでまず, 本研究では術後の呼吸筋力と運動耐容能との関連性について, 調査・検討を開始し, 2023年度もその症例の集積を継続した。これまでに, 112例(年齢73.6歳,男性63例,Stage IA 78例,肺葉切除術 95例)が調査に参加し, 術後の最大吸気口腔内圧(PI max)および運動耐容能(6MWD)は, 術前の値と比較して各々, 有意に低下した(PI max: 63.5 vs. 50.3cmH2O, p<0.01; 6MWD: 492.1 vs. 440.2m)。術後の運動耐容能と吸気筋力の関連性については, 先行研究を参考とした変数に術後の吸気筋力を加えた重回帰分析を用いて検討し, 術後6MWDには,術前6MWDに加えて, 術式と術後の吸気筋力が影響を及ぼす因子として抽出され, 術後の運動耐容能には術後の呼吸筋力が影響していることが実証された。 さらに, 2023年度は, この呼吸筋力に焦点を当てた術後の介入研究の準備を開始した。開始にあたっては, 当初使用を予定した呼吸筋トレーニングの器具が製造中止となったため, 使用機器を再度選定し, 新たに選定した器具を対象人数分確保をした。加えて, 研究の進捗状況が予定当初より遅延していることや,より質の高い介入研究への発展等を視野に入れ, 多施設での介入研究へと研究の計画を修正し, 現在は研究の開始に向けた調整を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
呼吸筋力の評価は, 被検者が紙マスクを外した状態で強く吸気および呼気を行う検査である。そのため, 新型コロナウィルス感染症の感染拡大時期には, 評価の実施を控えるべきであることが示された。この検査特性と感染拡大の影響を受けて, 研究の導入時点より呼吸筋力の評価自体が制限され, 現在に至るまでその影響が続いているために研究の計画が遅延している。
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今後の研究の推進方策 |
肺癌術後患者の術後呼吸筋障害については, これまでの調査によって実証された。また, 研究開始に向けた器具の購入や研究参加施設の調整など準備も進んでいる。そのため, 次年度以降は, 術後の呼吸筋障害が有意な患者を対象に, 術後の呼吸筋トレーニングを導入し, その効果検証を進めていく予定である。
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