研究課題/領域番号 |
21K17557
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分59020:スポーツ科学関連
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構(京都医療センター臨床研究センター) (2022-2023) 同志社大学 (2021) |
研究代表者 |
加藤 久詞 独立行政法人国立病院機構(京都医療センター臨床研究センター), 内分泌代謝高血圧研究部, 研究員 (30780275)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2021年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | エクソソーム / microRNA / TREM2 / 脂肪由来幹細胞 / 白色脂肪組織 / 運動トレーニング / 糖代謝 / 細胞外小胞 / マイクロRNA / AMPKシグナル / インスリンシグナル / exerkine |
研究開始時の研究の概要 |
身体運動の効果は全身に及ぶため作用機序は複雑であり,単一の臓器や細胞に焦点を当てた従来の研究法ではすべての運動効果を説明できない。そこで本研究は,運動の健康増進効果を包括的に理解するために,細胞間情報伝達に寄与するエクソソームに含まれる分泌型のmicroRNA(miRNA)に着目する。特にエクソソームによる全身へのパラクリン効果が注目されている脂肪由来幹細胞(ADSCs)から分泌されるmiRNAを対象とし,運動によって特異的にADSCsから分泌されるエクソソーム「Exerkine」の探索とその機能解析,さらには臓器間・細胞間クロストークの解明に取り組む。
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研究実績の概要 |
本研究は、肥満を基盤とする生活習慣病の予防・改善に有効な手段である運動の全身への健康増進効果を包括的に理解するために「microRNA(miRNA)を含むエクソソームに着目した細胞間クロストークの解明」を目的としている。 これまでの本課題研究において、運動トレーニング(ET)後の皮下脂肪由来ASC-Exoは、脂肪分化の抑制効果と筋細胞におけるインスリン感受性の亢進効果を認めた。そこで本年度は、ASC-Exoを対象にETにより変動したmiRNAの機能解析を実施した。ETにより有意に増加したmiRNAsを対象にバイオインフォマティクス解析を施行したところ、AMPKシグナルやインスリンシグナルが上位候補となり、脂肪分化の抑制や筋細胞のインスリン感受性亢進に対して、ETにより増加したmiRNAsが関与する可能性が示唆された。次に、ETにより最も増加したmiR323-5pに着目し、miRNAとmRNAの統合解析によりmiR-323-5pの標的遺伝子を予測したところ、単球・マクロファージ等に発現する細胞表面レセプターであるTriggering receptor expressed on myeloid cells 2(TREM2)が候補遺伝子の1つであった。そこでTREM2欠損マウスにて、16週間の高脂肪食負荷実験を実施したところ、耐糖能異常やインスリン抵抗性を呈し、糖代謝調節へのTREM2の関与が示唆された。以上より、運動による糖代謝調節には、miR-323-5pを介したTREM2による制御を受ける可能性が示されたが、詳細な分子機序は不明であるため、今後miR-323-5pおよびTREM2の更なる機能解析と作用機序の解明に取り組む。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の研究計画は、これまでの研究で得られた結果を元に、①同定済の運動トレーニング(ET)によって顕著に発現が変化した皮下脂肪由来ASCのExosomal-microRNA(候補”Exerkine”)の機能解析と、②高強度間欠的運動トレーニング(HIIT)が脂肪組織のmiRNAに及ぼす影響の解明に取り組む予定であった。 実際、本年度研究では、①ETにより最も発現増加したmiR-323-5pに着目し、miRNAとmRNAの統合解析によりmiR-323-5pの標的遺伝子を予測した結果、単球・マクロファージ等に発現する細胞表面レセプター・TREM2が候補となった。そこでTREM2欠損マウスにて、高脂肪食負荷実験を実施したところ、耐糖能異常やインスリン抵抗性を呈し、糖代謝調節へのTREM2の関与が示唆された。一方、②はWistar系雄性ラットに9週間のHIITを実施し、脂肪組織をサンプリング済であるが、計画していたmiRNAの網羅的解析までは至らなかった。以上、①により、運動による全身への健康増進効果の新たな分子機序解明の一端を明らかにすることができたが、当初計画していた②を完遂することができなかったため、研究の達成度は「やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、運動トレーニング(EX)を実施したラットの皮下脂肪由来ASCから分泌されたExosomal-miRNAsが、脂肪細胞の分化抑制や筋細胞のインスリン感受性亢進作用を発揮することが示された。さらに、ETにより最も発現が増加したmiR-323-5pはTREM2を標的としており、TREM2欠損マウスの検討により、TREM2は糖代謝調節に関与することが示唆された。 そこで本年度は、miR-323-5pの更なる作用機序解明に加えて、TREM2の機能や臨床的意義について知見を深めていく。TREM2は切断酵素ADAM10等により可溶型TREM2(sTREM2)として血中へ分泌され、sTREM2は認知症やMASLD(metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease)・MASH(metabolic dysfunction-associated steatohepatitis)のバイオマーカーとなる可能性が報告されているが、sTREM2の病態生理学的意義は不明である。多くのメタ解析からEXは認知機能やMASLDの改善効果が報告されていることから、これらの作用にTREM2/sTREM2が関与する可能性が考えられるため、TREM2欠損マウスや肥満症コホートを用いて、TREM2の機能と臨床的意義の解析を試みる。さらに、異なる運動様式である高強度インターバルトレーニング(HIIT)が脂肪組織のmiRNAsに及ぼす影響を検討するため、miRNAのマイクロアレイ解析を実施し、同定済のmiR-323-5pに及ぼす影響に加え、HIITで変動する新規miRNA探索する。 以上より、運動による全身の健康増進の作用機序の一端をmiRNAの観点から明らかとする。
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