研究課題
若手研究
本研究では身体の力学的な「動かしにくさ」:慣性という新たな観点から身体の適応に関する理解を深めることを目的に「専門トレーニングに適応したヒトは力学的な動かしやすさ(慣性の小ささ)を損なわないように発達している」という仮説を定量的に検証する。本研究の完成は障害リスクを下げながらパフォーマンスを高めるという身体能力を引き出すための理想的な身体に迫る知見が期待され、新たなトレーニング方略の視点を提示する。
本研究では、身体の力学的な動かしにくさ:慣性という側面から競技者の身体の特徴を検討することで、ヒト身体が持つ適応能力に関する理解を深めることを目的とした。研究対象者は1.男子短距離競技者、2.男子砲丸投競技者、3.男子長距離競技者であった。また、それぞれの特徴を検討するために2年以上特定の競技種目に従事していない一般健常成人男性のデータを対照群として測定した。これらの対象者でMRI画像を取得した。短距離競技者は、一般健常成人と比べて、身体質量全体に対する下肢の質量比は大きいが身体質量と下肢長で正規化された股関節まわりの慣性モーメント (つまり体格の影響を除外した力学的な下肢のふりにくさ) に差は見られなかった。また、長距離競技者では同程度の身長および下肢長を持つ一般成人と比較して下肢の慣性モーメントは有意に小さいもののその差は下肢の質量差に対して小さいものであった。短距離競技者と長距離競技者の結果から、筋 (一般成人→短距離競技者) であれ脂肪 (長距離競技者→一般成人) であれ、下肢の質量増大は近位に集中すると考えられる。このことは、トレーニングによって移動運動をより経済的にするという観点で質量の小ささほどに下肢を振りやすくできるわけではなく、むしろ「ヒト全般で」質量の増大が移動運動における下肢の振りやすさを損なわないことに有利に働いていることが示唆された。砲丸投競技者では、一般健常成人と比べて、体幹・上肢で分析対象とした筋が発達しており、特に近位の大胸筋と遠位の掌屈筋群の差が大きかった。つまり、近位ほど競技者で筋が発達しているという部位差は下肢のみで見られ上肢では異なっており、「最大出力を高めるような身体的な適応が慣性の側面から身体を動かしにくくしない」という上記の利点は、下肢に特異的なものであることが示唆された。
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すべて 雑誌論文 (16件) (うち国際共著 3件、 査読あり 15件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (31件) (うち国際学会 15件)
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