研究課題/領域番号 |
21K17653
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分59040:栄養学および健康科学関連
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
蓮澤 奈央 久留米大学, 医学部, 助教 (00837908)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | VNUT / EPA / NASH / VLDL / extracellular ATP / purinergic signaling / VLDL分泌 / 脂質代謝 / Quinacrine / HepG2 / プリンシグナル / 脂肪肝炎 / メタボリックシンドローム |
研究開始時の研究の概要 |
Vesicularnucleotide transporter (VNUT)はATPの小胞性分泌を担うトランスポーターである。申請者は、肝細胞からVNUT依存的に開口放出され、炎症やインスリン抵抗性の原因となるだけでなく、肝細胞のVLDL分泌を促進することを明らかにしてきた。VNUT阻害薬であるクロドロン酸は脂肪肝炎所見を著しく改善した。VLDLはVNUT含有小胞に含まれていることから、VLDLとATPは共に分泌され炎症や脂肪蓄積を惹起していると考えられる。本研究では、この仮説を検証し、VNUT依存性ATP分泌が肝細胞のVLDL分泌及び脂質蓄積を制御するメカニズムを明らかにする。
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研究実績の概要 |
Vesicular nucleotide transporter (VNUT)はATPの小胞性分泌を担うトランスポーターであり、申請者はこれまでに、肝細胞のVNUT依存性ATP開口放出、そして細胞外ATPによる炎症・インスリン抵抗性惹起を明らかにしてきた。VLDL小胞はVNUTを発現しており、VNUT阻害薬クロドロン酸はグルコース応答性ATP分泌、VLDL分泌、脂質蓄積を抑制した。クロドロン酸は、炎症、線維化等の脂肪肝炎所見を著しく改善した。本研究は、肝細胞のATP小胞分泌がVLDL分泌を促進する機構を分子レベルで解明し、肝脂肪蓄積とVLDL分泌過剰の悪循環にアプローチする、新しい脂肪肝炎治療法を確立することを目指している。 2021年度はATP小胞分泌のメカニズムを、ヒト肝細胞培養細胞HepG2株を用い、ATP分泌のCa2+依存性、グルコース応答性、脂肪酸応答性を確認した。HepG2におけるVLDL構成アポタンパクApoB100とVNUTの共局在を、脂肪酸刺激によるトリグリセライド合成及びVLDL分泌を確認した。 2022年度はエイコサペンタエン酸(EPA)がVNUTの阻害薬であるとする報告(Kato Y et al. PNAS.2022) を検証した。EPAは高中性脂肪血症に対する治療薬として臨床応用されている他、脂肪肝炎を改善させるとの報告があるがメカニズムは不明である。EPAがVNUTを阻害するとすれば、その脂肪肝炎改善作用の機序が説明できる。この、クロマフィン顆粒を用いてEPAのVNUTに対する作用を検討した。結果は、EPAはVNUTを特異的に阻害するのではなく、膜電位を脱共役することによって、ATP等の小胞分泌を低下させることが分かった(Front Pharmacol. 2022)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本企画はATPによるVLDL分泌促進作用の作用点の解明、及びクロドロン酸による肝脂質蓄積抑制のメカニズムの解明、の2項目に大別し計画された。 ①ATPによるVLDL分泌促進作用の作用点 2021年度に、ヒト肝細胞培養細胞HepG2株のATP分泌がCa2+応答性であること(イオノマイシンによるATP分泌、及びEDTAによる阻害)、また初代培養肝細胞と同様のグルコース応答性ATP分泌を確認した。これらはVNUT阻害薬クロドロン酸によりいずれも抑制された。免疫染色により、HepG2におけるVLDL構成アポタンパクApoB100とVNUTの共局在を確認した。2022年度はVNUTとVLDL分泌小胞を同定するため、先端バイオイメージング支援プラットフォーム(ABiS)の支援を受け、VNUTノックアウトマウスと、野生型マウスの肝臓の免疫電顕観察を行った。肝組織内の肝細胞、および肝星細胞内のVNUTの局在をオルガネラレベルで明らかにした研究はなく、報告を準備している。 ②クロドロン酸による肝脂質蓄積抑制のメカニズムの解明 2021年度に、HepG2のトリグリセライド合成及び分泌の定量を行ない、パルミチン酸及びオレイン酸負荷、あるいはVNUT阻害薬がこれに与える影響を確認した。2022年度は、ATPの産生、細胞内脂質の蓄積の関係を明らかにすることを計画した。当初の計画にはなかったが、脂肪肝を呈する糖尿病モデルマウスに対して、脂肪肝炎への効果が知られている運動介入またはSGLT2阻害薬投与を行い、肝臓のミトコンドリア形態とその日内変動が変化することを観察した。また肝ミトコンドリアを単離し、その酸素消費に薬剤が与える影響を検討した。これらの研究により、細胞内の脂肪代謝とミトコンドリアの関係が明らかになりつつある。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は当初の計画に沿いながら、より発展させた形で研究成果をまとめていく ①ATPによるVLDL分泌促進作用の作用点を明らかにする 2021年度の研究によりHepG2株が、ATP小胞分泌によるVLDL分泌促進作用を定量的に明らかにする実験系を確立した。2022年度はVNUTとVLDL分泌小胞を同定するため、先端バイオイメージング支援プラットフォーム(ABiS)の支援を受け、VNUTノックアウトマウスと、野生型マウスの肝臓の免疫電顕観察を行った。2023年度は、さらに肝細胞内の、脂肪滴の分解(リポファジー)の組織学的同定、VNUTノックアウトマウスと野生型マウスの比較、ライソソームとVNUTの局在関係の同定を、電子顕微鏡、免疫電子顕微鏡観察にて行なっていく。また超遠心機を用いたVLDL分泌小胞やライソソームの単離を行い、VNUTとVLDL構成成分であるApoB100の局在を生化学的に明らかにする。 ②クロドロン酸による肝脂質蓄積抑制のメカニズムの解明 2021年HepG2株におけるオレイン酸及びパルミチン酸による脂質合成を確認した。2022年度は、当初の予定にはなかったが糖尿病モデルマウスに対するSGLT2阻害薬投与が、脂肪肝に与える影響を電子顕微鏡で観察し、肝臓の脂質蓄積とミトコンドリア形態の関係を観察した。ミトコンドリアダイナミクスに関わるDrp1と脂肪肝の関係が確認された。2023年度は、脂質代謝とライソソーム、ミトコンドリアとの関連を明らかにしていく。VNUTが分泌型ライソソームに局在しているとの報告が散見される。肝臓のVLDL含有小胞が分泌小胞であるのか、分泌型ライソソームであるのかを同定し、また脂質代謝に必要であると言われる脂肪滴とライソソームの融合についても解明していく。また、肝臓のミトコンドリアのエネルギー選択についても、並行して解明していく予定である。
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