研究課題
若手研究
糖尿病の発症に関与するWFS1は、神経変性疾患であるウォルフラム症候群の原因遺伝子である。申請者はショウジョウバエを用いた実験から、WFS1の発現を抑制すると、アルツハイマー病(AD)関連タウタンパク質による神経変性が増悪化することを報告した。本研究では、WFS1の欠損により遺伝的に糖尿病を発症し、ADタウ病理の過程を再現する新規マウスモデルを確立し、全身でのWFS1の欠損がタウタンパク質により惹起される神経変性を増悪化する機序を調べる。
糖尿病の発症に関与するWFS1は、神経変性疾患であるウォルフラム症候群の原因遺伝子である。本研究では、WFS1の欠損により遺伝的に糖尿病を発症し、アルツハイマー病(AD)のタウ病理の過程を再現する新規マウスモデルを確立し、全身でのWFS1の欠損がタウ神経毒性により惹起される神経変性を増悪化する機序を調べる。当該年度は、実験1として、青斑核神経細胞特異的にヒト野生型タウを発現するアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを投与したWFS1欠損ヒトタウノックインマウスから脳組織を採取し、タウ病理に対するWFS1欠損の影響について検討した。ベクターの投与により、WFS1欠損ヒトタウノックインマウス、また対照となるヒトタウノックインマウスの青斑核でリン酸化タウの蓄積を認めた。また、実験2として、24ヶ月齢まで生存したWFS1欠損マウスについて、ウォルフラム症候群に関連する脳病理、および糖尿病関連の表現型を調べた。WFS1欠損マウスでは膵臓β細胞がやや脱落していたものの、血糖値や血中インスリン量は野生型マウスと同程度であった。また、脳組織の解析において、ウォルフラム症候群の特徴である白質変性、また神経細胞脱落など顕著な病理は認められなかった。さらに、WFS1欠損マウスでは、ヒト脳においては類でんぷん小体として知られる、加齢に伴い海馬に出現するグリコーゲン凝集体が減少することが分かった。このグリコーゲン凝集体の形成は脳内の老廃物排出システムとの関連が示唆されることから、WFS1は脳では老廃物排出システムの調節に関与している可能性が考えられた。以上の結果について、国内学会にて発表を行った。
2: おおむね順調に進展している
現在までに、下記の通り、研究目的達成に向けて、準備、検討を進めている。今年度中に、青斑核神経細胞特異的にヒト野生型タウを発現するAAVベクターを、WFS1欠損ヒトタウノックインマウスの青斑核に投与し、6および12ヶ月間の加齢飼育を行った後に脳組織を採取した。次年度は、これら脳組織を用いて、WFS1欠損下でのタウ病理の進展、また神経細胞へのストレス状態について解析を行う。24ヶ月齢のWFS1欠損マウスでは、顕性高血糖や顕著な脳病理は認められなかったものの、海馬特異的に出現するグリコーゲン凝集体が減少することが明らかとなった。これらの凝集体は脳のどの細胞に由来するのか、WFS1欠損によりなぜ凝集体が減少するのか、免疫組織化学的に詳細な解析を行う。また、このグリコーゲン凝集体とタウ病理との関連が示唆されていることから、マウスのタウより凝集性の高いヒトタウが発現するバックグラウンドで病理を解析するため、24ヶ月齢まで加齢飼育したWFS1欠損ヒトタウノックインマウスの脳組織採取も進めている。
青斑核にヒト野生型タウ発現AAVベクターを投与した、WFS1欠損ヒトタウノックインマウスの脳組織の採取を完了したので、次年度は、タウ病理が蓄積した青斑核神経細胞でどのような変化が生じているか、青斑核以外の脳領域にタウ病理が進展しているかについて、組織学的に詳細な解析を行う。24ヶ月齢のWFS1欠損マウス、またWFS1欠損ヒトタウノックインマウスの脳組織を用いて、グリコーゲン凝集体の形成について解析を進め、さらにウォルフラム症候群で認められる脳幹の神経細胞脱落などについて詳細に検討する。必要に応じて、マウスの神経やグリア由来の株化細胞を用いて、グリコーゲン凝集体形成に対するWFS1の関与を検討する。また、糖尿病患者、また一部の神経変性疾患の患者では、膵臓にタウ病理が出現することが報告されている。そこで、24ヶ月齢のWFS1欠損マウス、およびWFS1欠損ヒトタウノックインマウスの膵臓組織を用いて、膵臓のタウ病理について解析する。これらの結果を論文として発表する。
すべて 2023 2022 2021 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 7件) 備考 (3件)
Journal of Alzheimer's Disease
巻: 93 号: 3 ページ: 1065-1081
10.3233/jad-230121
Journal of Pharmacological Sciences
巻: 151 号: 3 ページ: 135-141
10.1016/j.jphs.2022.12.008
iScience
巻: 26 号: 2 ページ: 105968-105968
10.1016/j.isci.2023.105968
Brain Communications
巻: 4 号: 6
10.1093/braincomms/fcac286
巻: 82 号: 4 ページ: 1513-1530
10.3233/jad-210385
https://www.ncgg.go.jp/ri/report/20230117.html
https://www.ncgg.go.jp/ri/report/20221107.html
https://www.ncgg.go.jp/ri/news/20210811.html