研究課題
若手研究
魚油に豊富に含有されるn-3系多価不飽和脂肪酸であるドコサヘキサエン酸 (DHA) やエイコサペンタエン酸(EPA) はその長期的摂取が循環器疾患に対し保護効果を持つことが疫学的に知られている。本研究は、申請者らが新たに可能性を見出した『脳血管特異的に存在するDHAの血管収縮抑制作用』を検証し、その背後に存在する分子基盤を、薬理学、生化学、分子生物学等の多角的なアプローチによって解明することを目的としている。これにより、n-3系多価不飽和脂肪酸摂取の脳血管疾患予防効果に対する新たな科学的根拠を提示することが可能となる。
ブタ脳血管特異的なドコサヘキサエン酸 (DHA) による収縮反応抑制機序を解明すべく以下の検討を行った。一昨年度はDHAの有するTP受容体拮抗作用がブタ脳底動脈でも再現されることと、それに加えて冠動脈では見られないものの脳底動脈ではさらなる収縮抑制作用があることを見出していた。前年度までの検討で、DHAがBKチャネルの開口を介した収縮反応の抑制を行っている可能性は否定されたが、今年度はさらに他のカリウムチャネルがDHAによる収縮抑制に関与するかどうかを検討した。その結果、DHAはテトラエチルアンモニウム (TEA) によって、引き起こされた脳底動脈の収縮反応を強力に抑制し、Ba+によって引き起こされた収縮反応は抑制しないことが見出された。このことはDHAがTEA感受性のカリウムチャネルではなくBa+感受性のカリウムチャネルを開口することによって膜電位を過分極させ、電位依存性のCa2+チャネルを閉口させることで脳底動脈の収縮反応を抑制する可能性を示唆している。これについては、今後詳細に検討していく予定である。一方、DHAの新たなターゲットとしてストア作動性カルシウムチャネル (SOCC) に対する抑制作用を見出した。先行してストア作動性カルシウムチャネルによる収縮反応が比較的観察しやすいモルモット胃底平滑筋を用いて検討したところ、DHAはSOCCの活性化を介した胃底平滑筋の収縮反応を抑制することを見出した。また、細胞を用いた検討ではDHAがSOCCを介したCa2+流入を抑制することを明らかにし、胃底平滑筋の収縮反応の抑制がSOCCからのCa2+の流入の抑制によるものだと考えられた。この結果は現在、国際紙に投稿中である。
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