研究課題/領域番号 |
21K17727
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分60050:ソフトウェア関連
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 (2022-2023) 国立研究開発法人理化学研究所 (2021) |
研究代表者 |
深井 貴明 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 情報・人間工学領域, 研究員 (00871328)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2023年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2022年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2021年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 仮想化技術 / 高性能計算 / コンピュータセキュリティ |
研究開始時の研究の概要 |
近年、様々な分野でデータが爆発的に増加し、これを共用 HPC 環境で計算処理する需要が増えている。しかし、現在の共用 HPC はユーザーが管理者権限を持つこと (以後 root 化) ができないため、クラウド環境と比べユーザーによるソフトウェアの導入やシステムレベルの最適化が困難である。これまで 共用 HPC 環境での完全な root 化はセキュリティと性能のトレードオフがあり実現されていない。 本研究ではこのトレードオフを解決するシステムを軽量ハイパバイザというシステムソフトウェアを基に設計し、共用 HPC 環境の性能を維持しつつ安全な root 化の実現する。
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研究実績の概要 |
本研究課題では、共用 HPC 環境でユーザーによる管理者権限の利用を安全かつ性能劣化なしに実現することで、HPC 環境の用途を広げることを目的としている。このためには 4 つの要件 (1)ユーザーのroot 化、(2) HPC システムの保護、(3) 計算環境の高速なリストア、(4) 性能劣化の回避、という4つの要件を満たす必要がある。これらの要件満たす設計として、軽量ハイパバイザを用いたハードウェア保護と高速リストア機構を提案し研究開発をしている。ハイパバイザ を用いることで、ユーザーに OS の管理者権限を付与し OS 上でいかなる変更をされてもシステム管理機能は OS に非依存で動作可能であり、これによって要件 (1)を満たす。また、ハードウェアへの不正な操作を禁止する機能および数十秒程度で OS 起動直後の状態に戻せる機能を提供することで(2)(3)を満たす。さらに、軽量ハイパバイザは一般的な仮想化技術と比べ性能劣化が大幅に減らせることが特徴があるため、これによって要件(4) を満たす。 本年度の成果として、上記4つの要件を満たす満たすプロトタイプについて、実際のワークロードを意識した性能評価実験とその分析を行った。具体的には、MPI 通信に関する性能の網羅的に測定、クラウド環境でよく用いられるキーバリューストアの性能測定を行った。また、これまで行った基本性能と上記実験について、同様の実験を一般的なハイパバイザでも行い性能への影響を比較した。比較した結果、メモリ性能については性能の最大値にはほぼ差がないものの平均値では大きな差があることがわかった。MPI 性能では多くの項目で提案手法の方が高速であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の進捗は (1) ワークロードを意識した性能評価、 (2) 一般的なハイパバイザとの性能比較、(3)国際学会への論文投稿 がある。 以下で各進捗について示す。 (1) については、昨年度から着手していたキーバリューストアの Redis での性能測定実験を行った。また、複数のノードを用意し MPI 性能の測定を行った。MPI の実験の過程で、測定結果が不自然であったり不安定であったりするという問題があり、複雑な実験を何度もやり直すこととなった。これについては、実験の自動化によって対応できた。(2) について、昨年度行った CPU、メモリ、ネットワーク性能の測定、および上記 (1) で行った性能測定すべてにおいて、一般的なハイパバイザである KVM で同様の実験を行いその結果を提案手法のものと比較した。その結果、提案手法は多くの項目で KVM より高い性能を示した。また、その他の項目についてはほぼ全て KVM と同程度の性能を示した。一例としては、メモリ性能は最大値においては提案手法と KVM がほぼ同等の性能を示したものの、平均値では提案手法の方が高い性能を示した。(3) については、上記結果をまとめ国際学会論文を投稿したものの、結果は不採択であった。 本年度は主に性能評価をおこなったものの、全体的にその分析や考察が不十分であったと考えている。一部の性能比較についてはその理由が以前不明瞭な部分があり、今後より詳細な分析を行い原因を明らかにする必要がある。また、分析の不足から性能差に関する考察も不足し、研究成果としては限定的な内容にとどまってしまった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の計画として、詳細な性能分析とその考察を行い、その結果を国際学会へ再度投稿することとする。詳細な性能分析とその考察については、本年度国際会議論文を投稿し不採択となった際に指摘された箇所について重点的に進める。具体的には、(A) 原因が不明瞭な性能差の原因を定量的に明らかにするための追加実験、(B) より一般的な考察を得るための追加実験と考察がある。 (A) はマイクロベンチマークやプロファイラーを用いて、性能差の原因を定量的に明らかにする。 (B) について、現在の実験結果は A64FX 環境に限定された結果となってしまっており、この研究成果からより一般的な知見を得ることは難しいと言える。より一般的な知見を得られるよう、A64FX 以外での ARM CPU 環境でも同様の性能測定や分析を行い、ハードウェア性能と提案手法による性能への影響の考察する。他の ARM CPU 環境としては、ARM CPU 搭載のサーバーマシンを検討する。 予想される困難としては、提案手法と一般的なハイパバイザにおける性能差や環境の違いによる性能差の原因究明が難しい場合があることを挙げる。本年度の成果として、性能測定を自動化する仕組みができているため、これによってある程度は対応可能であると考える。また、既存のベンチマークやプロファイラだけでは原因究明が難しい場合には提案手法のプロトタイプや比較対象のハイパバイザのコードを改変し、分析に必要な情報を取り出すことで対応する。
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