研究課題/領域番号 |
21K17748
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分60090:高性能計算関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
桝井 晃基 大阪大学, 大学院情報科学研究科, 助教 (70897793)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 反復法 / 疎行列計算 / 大規模電磁場解析 / 前処理 / 多倍長精度演算 / 疎行列演算 / 高速化 / 高精度演算 / 複素数問題 / 電磁場解析 / 大規模数値計算 |
研究開始時の研究の概要 |
電磁場解析は例えば携帯電話の電磁波の解析や,がん治療のための機器の開発支援など,身の回りのさまざまな分野で使われています.このような解析は問題によっては1か月以上かかる場合があるため,こうなると実用的ではありません.そのため,高速化が必要となってきます.このようなシミュレーションでは大規模な複素数の連立一次方程式の計算が必要となりますが,この計算がシミュレーション時間の大部分を占めます.そこで,この方程式の求解を高速に行うために,高精度演算の適用や反復法の前処理手法の開発の研究を行なっています.
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研究実績の概要 |
辺要素有限要素法による時間調和渦電流解析や高周波電磁場解析で現れる大規模複雑な複素対称線形方程式の求解においては,行列の形状が疎行列となるため一般的に反復法が用いられるが,共役直交共役勾配(COCG)法などの反復法の収束性が悪いことが知られている.さらに近年は解析の高性能化のため,解析対象が大規模化・複雑化するにつれ収束性はさらに悪化することが見込まれる.よって,電磁場解析を意味のある時間内で終えるためには高効率な解析システムの開発,すなわち並列化や最適化が必須となる.今年度は並列化と多倍長精度演算の適用に着目した高速化を目指した. IC前処理(不完全コレスキー)付きCOCG法では計算に依存関係が存在するため,並列化にあたってはその部分が計算時間のボトルネックとなる.そのため,計算順序の入れ替えや要素の棄却をすることによって依存関係を無くす必要がある.今回は電磁場問題向けの行列の非ゼロ要素位置に合わせて領域を分割し,それぞれの領域に合わせた並列化を行なった.並列化を施した領域については,高速化に成功しており,残りの領域についても適した実装をして性能評価をしていく. また,COCG法などのクリロフ部分空間法は数値誤差の影響を受けやすいため,多倍長精度演算によってその誤差を小さくできることが知られている.一方で,倍々精度演算などの多倍長精度演算は倍精度演算と比べて計算そのもののコストがかかるため,総計算時間を削減できるケースは多くない.そのため,部分的に倍々精度演算を適用したり,途中で精度を変更したりする混合精度演算による反復法を実装し,性能評価をおこなった.その結果,従来手法と比べて同程度の収束性を保ちつつ計算時間の短縮に成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで,電磁場解析問題に多倍長精度演算(倍々精度演算)を適用することで安定的に収束性を高め,問題によっては計算時間の短縮にも成功した.一方で,倍精度演算でも収束する問題の多くにおいては,倍々精度演算を適用したときの結果の方が多く時間がかかっている状況であった.そこで,計算時間の短縮を目的として,倍精度演算と倍々精度演算を任意のタイミングで切り替えることができる混合精度演算による反復法を実装し,性能を評価した.提案手法により,倍精度演算で解けない問題では安定的に解を求めることができ,すべてを倍々精度演算で計算した時と比べ計算時間の短縮に成功した. また,反復法の並列化を目指して,電磁場問題向けの行列の分割方法や計算順序の入れ替え方法について提案,実装をおこなった.今回の手法では電磁場問題に関する行列を3つの領域に分割し,それぞれの領域に対して並列化手法を提案した.1つの領域に関しては,性能評価済みで,高速化に成功している. さらに,実際の電磁場解析ソフトウェアにも組み込んで性能評価をしたところ,実際のシミュレーションで用いられるような自由度1,000万以上の問題に対しても有効であるということが示された.これらの成果は学術上の新規性のみならず,実用性も認められるものである.このことから,本研究は期待通りに進展したと判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
倍精度演算と倍々精度演算による混合精度演算の反復法に関して,収束のふるまいによって自動的に精度を切り替えるような反復法を実装していく.具体的には反復法の残差が停滞している時には多倍長精度演算に切り替え,残差がスムーズに落ちていくときには倍精度演算を適用するような手法を考案していく.さらに,複素数の多倍長精度演算そのものについても,効率化の余地が残っている部分が存在するため,行列やベクトル演算に適した最適化を施していく. また,反復法の並列化に関しては実装したのち,ABRB法やABMC法などといった従来手法と比較することで本手法の有効性を評価していく.さらに,提案手法に従来手法を組み合わせた時の性能評価や,電磁場問題に適した新たな並列化手法の検討もおこなっていく. これらの成果に関しても同様に,ADVENTURE_Magneticなどの実際のソフトウェアに組み込んで,シミュレーション全体における性能の評価をしていく. これまでさまざまな数値実験により,高周波電磁場問題に有効な反復法を提案・実装をおこなってきたので,これらの結果をまとめ,国際会議等で発表し,さらに学術論文誌にも投稿していく.
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